プロフィットボーイズの来航

「うおおおおおおおおお!!!」

「うりゃあああああ!!!!」

「ぶらああああああああああ!!!」


プオオオオオオオオオ・・・・・!!!!!!

プオオオオオオオオオオオオ・・・・!!!!


『!!!!』


幾度となくなけ飛ばされた男たちの中には、すでに諦めて隅で見守る者もいれば、急にもたらされた非番を味わうように正体不明の液体をすすり口元に微笑みを浮かべて談笑するものもいた。


しかし、それ以外の大勢は、日頃のうっぷんを暴力にて晴らすことをやめられずにいた。


その時までは。


プオオオオオオオオオ・・・・・!!!!!!

プオオオオオオオオオオオオ・・・・!!!!


「みなさま?どうかなさいましたか?この程度でわたくしはたおせませんことよ?みなさま?」


埠頭の方から聞こえてくる巨大な笛の音を聞くと、男たちは操られるように全速力で駆けた。


そして瞬く間にジゼルの周りには、デイヴィッドを除いて誰一人いなくなった。


ジゼルは、急に寂しくなって思わずセイムを探したが、その場には居なかったのでデイヴィッドに文句を言った。すると、デイヴィッドは一度だけ頷いた。






「やったなセイム、俺たちが一番乗りだ」

「え・・・は・・!はい!あれは?!すごい!瓶の中に浮きシップの模型が入っています!・・・特殊な能力で作ったのでしょうか?」

「ばーか、お前は本当に物を知らないね。あれはボトルシップって言って、長ーいピンセットを使って瓶の中で組み立てるんだよ」

「そんなことが本当に出来るんですか?!」

「だから、あるんだろ?」

「・・・・すごい!」


『プロフィットボーイズ』というのは巨大な商業船団で、船の甲板に展開される商店には、このスカイワールドエクスプローラー各地から集めた商品の数々が所狭しと並べられていた。


商人たちのその満ち溢れるエネルギーは尋常ではないものがあった。


それらの殆どは、プロフィットボーイズの旗艦である15オンス級ガレオン『ユリシーズ』に一番乗りで乗り込んだ二人の若者に向けられていた。


セイムは、目を向いて売り込みをする彼らの口から止めど無く発せられる『安いよ』というセリフと、『買った買った』と言うセリフに絶えず殴られているような気がした。


しかし、そんな状況でありながら彼は自分の好奇心をやはり止める事は出来なかった。


「ああーーー!!練香水ねりこうすい!今若者たちの間で流行りの練香水!ここでしか買えないフレーバーだよ!気になる彼女にプレゼント!今なら!おしゃれ小鉢も付いてくる!アアー買った買った。」


数々の食品や、工芸品や、芸術的絵画、美しい装飾と食器、発掘品、日用雑貨に、様々な書籍、樽に差し込まれた刀剣や年代物のマスケット、磨かれた重厚な鎧から特殊な繊維で編みこまれたローブ、日常を彩る趣向品、顔写真とプロフィール入りのきずなパーティ募集用の写しガラス、見た事の無い遠くの土地の権利書、かごに入れられた沢山の愛玩用の小動物、2サイクル先の体験型ファースト―パーソンシネマティックの予約券、使い方の解らない雑貨の数々、数々。


溢れる程の情報の中から次にセイムの気を引いたのは、木の枝のように複雑に絡み合ったガラス器具を使って目の前で調合販売をしてくれる練香水屋だった。


彼は迷わずそこの店主に声をかけて一生の買い物をするように面倒な客になり、時間をかけて世界で一つだけの練香水を完成させた。


それからセイムは、すぐ隣で恨めしそうに様子を見ていた幽霊のような女性が営む商店から上質な手触りのハンカチを購入した。


幽霊のような女性が言うには、このハンカチにはオリジナルの特殊なルーンが施してあり、常に湿り気を帯びているという。


それらの支払いは、シャズのクレジットで行われた。


メイプルはその間、他所の商店を覗いて、歩きながら食べられる干した魚のようなものと、サッカリンと、メンテナンス用の油と松脂と履き心地のよい替えの下着と靴下を購入した。


二人が合流する頃にはジョズの街の人々が次々に乗船し、甲板の上は本物の大市場のような賑わいを見せていた。


彼等の求める品物の多くは、酒や食品やタバコだったがそのほかに書店に長い列を作る者らも多くみられたのでセイムは、その列の先が大変気になって並ぼうとした。


おおよそ見ただけでどのような物なのか見当が付く干し肉やボトルに入れられた酒などと違い、書物は開いて描かれている絵を見るまでどんな物か解らないのだ。


「ここが最後尾ですか?」


セイムは両脚が機械になった男に声をかけた。


男は、歯の欠けた大きな口を晒して不慣れで不自然な、また、何かを企んでいるかのような嫌らしく優しい笑顔をセイムに向けていった。


「・・・そうさ。坊や」


セイムは堂々と最後尾に並んだが、その後、誰かが彼の後ろに並ぶよりもずっと前にメイプルによって列から引き離されてしまう事となった。


「バカ!お前何してんだ!」


メイプルは熱っぽく顔を赤くしてセイムの手を引いた。


「なにって・・・。あ!」


セイムは静かに揺れる甲板の隅から見慣れた人影を発見した。


「ジゼルさーん!デイヴィッドさーん!こっちです!」


二人は、すぐにセイムの存在に気が付いてジゼルが眩しそうに手を振った。

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