夜明けの挽歌

ジゼルは、おでこに手で小さな日傘を作って昇る太陽を眩しく眺めて、今まで毎日そうしてきたように、おヘソの中まで太陽の光を当てるつもりでうんと背伸びをした。


「ああ、なんてすてきな街なんでしょう」


それを聞いたマシウは、人知れず微笑んだ。


マシウは、ヘイドとエリーに感謝の言葉を告げるとジゼルとデイヴィッドに頭を下げてお礼を言って地下へと降りて行った。


マトリクスの光に照らされたカウチとゴキブリ脳バチ達は、すっかりいつものように大人しくなり、それぞれがあるべき場所へと帰還した。


ジゼルが地上に降りて、街全体に漂っていた焦げた匂いが潮風で掃かれるのを目いっぱい吸い込んで、一日の予定を立てていると彼女の前にすっと誰かが体を差し込んだ。

デイヴィッドだ。


「デイヴィッドさん?」


デイヴィッドは、何か邪悪なものからジゼルを隠すように少しだけ銀色の両手を広げた。


「へへ、お嬢ちゃん。よくもこの街をめちゃくちゃにしてくれたな」

すすと焦げで一層影を濃くした街のいたるところから、男たちが立ち上った。


「今日は待ちに待ったプロフィットボーイズが来る日だってのに、あんたのせいで散々だ」


「だが、まだ暴れたりねぇ」


「ちーと付き合ってもらおうか。なぁに、気が済むまでだけさ俺たちのな」


「あぁ。そうだとも」


ぞろぞろとジゼルたちを囲む焦げた男たちが一歩前に踏み出すと、デイヴィッドは銀色の両手を彼等に向けた。


「デイヴィッドさん。大丈夫、わたくしにお任せくださいな」


ジゼルはそう言ってデイヴィッドをたしなめると自らを大衆の前に晒して構えた。


「さぁ、どこからでもかかってきなさい!」




うぁぁぁぁ・・・・・・!!!

ウォォォォ・・・・!!


「・・・なんだ?祭りか?」

「きっと、ジゼルさんです・・・・!っとれた!メイプルさん!」

「ああよくやったセイム」


撃ち捨てられたグライダーの心臓部から取り出したコアをルーペを使って覗き込んだメイプルは眉間にしわを寄せた。


「ううん。こいつも削れちまってるがただのコアだな」

「わかるんですか?」

「ああ、俺はこう見えても『ディテクター』でもあるからな。・・・でもあの光は、

一体なんだったんだ?ありゃまるで・・・」

「あれもきっとジゼルさんですよ」

「お前はそればっかだな」

「すごいんです・・・。ジゼルさん」

「ふぅん・・・。どお凄いんだよ?」

「とっても強いんです!物知りで優しくて、絵も上手だし、編み物も出来て・・・。料理も!料理も、面倒くさがらないで作ってくれて」

「絵?上手だったか?おまえらの似顔絵、フクロウと牛みたいだったぞ?」

「そんな事ありません!いえ・・たぶん・・。本当ですか?」

「うん」

「それでも・・・すごいんです」

「ふぅん。セイム、このコア、元に戻しといてくれよ。適合した機体じゃないと役に立たないしな」

「はい」


セイムは受け取ったコアをグライダーの機関部に納めて、彼が触る前と全く同じ状態に戻してから、一度起動させて、それから、こびり付いた汚れをざっと落とした。


ぷるるん・・・・ぷるるるん・・・・・・。


「かかった・・・。どうしてさっきはかからなかったんだろう・・・」


「さあな、まあいいじゃねぇか。そろそろ時間だ。行こうぜ」


「はい」




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