人の意思
『おや、久しぶりに話の分かる奴が来た』
『なななななななんだって!!なんだって!!』
『あぁ、うな重が食いてぇよ・・・』
『あんたはまたそれかい!』
あなた達は?
『私たちは、君と同じプレイヤーだよ。いや。厳密にはだったと言った方が良いかな。』
『体は塩になって崩れちゃったけどねぇ』
助けたい人たちがいるんです。
『ほう・・・』
『なにさ藪から棒に、やめとけやめとけって、人なんて助けたって結局はお前を利用するだけだよ!お前を追い抜かしてどっかに行っちまうだけさね!』
『我々に直接干渉するだけの力は無いしな・・・』
『そおそ、鉛筆一本動かせないんだから』
なら、何ならできますか?
『何も!ハッ俺たちは役立たずだからな』
『そうだとも、何かをするのはお嬢さん、あんただよ』
『馬鹿な事だろうとなんでも一度はやってみる事が明日への第一歩だな。うん』
そう・・・。あなた達のお名前は?
『我々は・・・・』
「マシウ様!!扉が!!もう・・・!!」
「くっ・・・!ああ!!!」
扉は破られ、デイヴィッドはいつでもジゼルだけを逃がせる準備が既に出来ていた。
ヘイドとエリーは、破られた扉の隙間から入り込んできた虫の大群に再び飲み込まれ、それらはマシウとジゼルのすぐそばにまで迫っていた。
ジゼルは虫達に
あなた達のお名前は・・・・?
ジゼルは、渡された特殊合金の取っ手に開いた4個の穴に指を差し込んだ。
穴は、ジゼルの指に合わせて広がり、また縮んだ。
あなた達のお名前は・・・・。
ジゼルは、ゆっくりと、空高くそれを掲げると取っ手を開いて入れ物を解放した。
光が溢れ、居合わせた者が皆ジゼルを見守った。
「『マトリクス』よ。さぁ、闇に光を照らしておくれ・・・・!」
はるか後方で上がる早すぎる朝日をメイプルも怪盗フォックステールも思わず振り返って動きを止めた。
「なんだありゃ・・・。なんだ・・・。あったけぇ・・・」
恐るべき光景に反して、その光は優しく暖かいような気がしたのでメイプルは思わず手袋を取って光を直接手で受けとめ、困惑した。
「ジゼルさんです!きっとジゼルさんです!うああああ!!!!」
セイムは、立ち尽くすメイプルを尻目にまたもやラストチャンスだと自分に言い聞かせて怪盗フォックステールのくびれた胴体に向かって飛びついた。
しかし、フォックステールは軽々と優雅に跳躍しそれを躱すと、子猫のようにしなやかに空中で体を捻ると勝ち誇る様に口元をほころばせて二人の少年を見た。
「クソっ!!メイプルさん!着地を狙って下さい!」
「お!おお!おおおおおおおりゃーーー!!!」
メイプルはフォックステールの着地地点を目指して猛進した。
すると、フォックステールは深い胸の谷間から小さな小瓶を取り出して叩き割った。
フォックステールは、辺りに放出された『非常に濃いエレメント』を操作して一瞬爆発的な上昇気流を発生させ着地のタイミングをずらしメイプルの突進を躱して再び微笑んで夜の街を跳ねた。
セイムは、彼女を追った。
あの光はジゼルが街の人たちを救うために起こしたものだ。
きっと、そうに違いない。
その信仰が彼に大きな力を与えていた。
セイムは死に物狂いで襤褸屋根を踏み抜きながら追いかけて、とうとう開けて平坦な孤立した屋根に彼女を追い込むことに成功した。
この孤立した平坦な屋根には、小さなグライダーが数艇打ち捨てられていた。
何かを待つように、或いは、堪忍したように怪盗がスラリと立ち止まったので、セイムはまたフォックステールに飛びつき、またもや彼女はそれをやすやすと躱した。
だがしかし、今回のセイムの狙いは、彼女では無かった。
セイムが捕まえるふりをして飛びついたものは、浮きシップを運搬するためのガントリークレーンの操作盤だった。
「うごけ・・・!!ライドザ!!ライトニング!」
ガウン・・・・ウウウウウウ‼‼‼‼
「!!」
その時フォックステールのマスクの下には見て取れる動揺があった。
「いまです!メイプルさん!!」
メイプルは蝙蝠の如く闇に紛れて飛んだ、今宵の獲物は怪盗だ。
巨大なガントリークレーンの旋回からの急停止を初速に乗せたメイプルは、捻り込むように彼女を追い込んで狙いはまさに正確無比だった。
しかし、怪盗は瞬時に状況を掌握して、メイプルのフックガンのスリングを願いを込めるように口づけを施したカードで切断した。
便りを無くしたメイプルは、重力に弄ばれ屋根の上を転がったが回転が止まった先ですぐに立ち上がり怪盗に突進した。
「うあああああ!!!!」
「いけない!メイプルさん!」
危うく、屋根から飛び降りる寸での所で、セイムがメイプルを捕まえた。
目標である怪盗は既に二人と違う場所に立っている事をセイムは知っていたのだ。
怪盗は縄梯子に掴まる様に立って二人の少年を振り返えると、共に造り上げた先ほどまでの充実した時間を讃えるように、満ち足りた様子で微笑んだ。
メイプルはその姿を恨めしい思いで両手を固く結んで眺めた。
その目には光るものがあった。
セイムはすぐに停泊中のグライダーを調べた。
グライダーで彼女をすぐに追いかけるのだ。
しかし、それらは動力とは独立している計測器やコンパスまで動かなくなっていた。
「おかしい・・・。こんなことって!あの人のは飛んでいるのに!」
セイムは乱暴にグライダーを揺らそうと試みたが、打ち捨てられた重い機体はびくともしなかった。
メイプルは涙をぬぐいながらフォックステールを足場の縁まで追った。
空は白んで、水平線の向こうからは、真っ赤な朝日が現れ始めていた。
メイプルはあらん限りの力を込めて思いの丈を述べた。
「おい・・・!おおーーーーい!!!フォックステールーー!!」
フォックステールは、振り返らず、昇る朝日をうっとりと眺めていた。
メイプルは、また涙をぬぐった。
「俺も・・・俺も連れってくれよおおお!!!」
フォックステールはずっと気が付いていた事をまさに今思い出したかのようにハッとして振り返えると、美しい黄金の瞳でメイプルを見た。
「次に会えたらね。『お嬢ちゃん』」
彼女を乗せた飛行機械は、どんどん小さくなり、やがて見えなくなった。
二人は、その様子をずっと眺めていた。
セイムは急に不安になってメイプルの顔を検めた。
「メイプル・・・さん?」
「・・・・へへ。行こうぜセイム」
メイプルは今までのようにチャーミングな笑顔を見せたのでセイムはとても安心した。
「はい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます