ジョズの街

この街では、喧嘩や、乱闘騒ぎなどは日常的なよくある光景だ。

それらの原因の多くは、賭け事と女が絡んでいる。もっと掘り下げてしまえば、その根底には、捨てきれない人間の欲がある。


人間は、生きる地を変え、無限の時間や飢えない体を与えられたとしても、誰もが未だに強い欲望に支配され、それによって突き動かされているのだった。


今夜の出来事も、そういった誰かの欲によって引き起こされた一つの事象に過ぎず、明日の夜には、自分は予定通りの徴税に出かけ、街一番の不味い酒を飲み、夜明けを待つに違いないのだ。と、マシウは、止まりかけた頭の片隅で考えていた。


マシウの足元に転がった非常用のランタンの明かりは弱弱しくなり、地面の凹凸のかすかな影を揺らしているのを見ていると、彼は次第に終末を予感した。


「マシウ様!マシウ様!」

「しっかりしてください!逃げなければ上へ!逃げましょう!ここは危険です!」


「あ・・。ああ」


マシウはいつものように機械の言いなりになることにした。


街の人々が悲鳴を上げてのたうち回るような気配が暗闇からしていたが、彼には、どうすることも出来はしない。


地表から立ち上る量子蛍たちのかすかな明かりを頼りに、マストへつながる梯子にたどり着いた時、彼らは突然暗闇から現れた巨大なカウチに襲われた。


マシウは両手を広げてカウチを歓迎する動きをしたが、彼は間一髪、下敷きにされるのを免れた。


「マシウ様・・・。早く逃げてください」

「マシウ様!私たちにかまわず!早く!」


2体の自動端末が身を挺して彼をかばったのだった。

ウチは情け容赦なく自動端末を押しつぶして、微かに覗いていた手や顔の部分は、瞬く間に小さな虫で覆いつくされた。


マシウは心底恐ろしくなって、梯子の手すりに手を伸ばしたが手のひらに焼けるような激痛を感じると手を引いて、消えかけのランタンで手を照らした。


「ああ・・・・」


手には、すでにおびただしい数のゴキブリ脳バチが取り付いて、体の表面の8本の針を獲物の肉に食い込ませていた。


力なくうつむくマシウにカウチたちがゆっくりと迫った。


マシウは手の平から奴らの毒が既に致死量に達して全身に回ってしまったような気がして絶望した。


「・・・くれ」


マシウは無意識に漏れる言葉を止めなかった。

何者かが、彼にそうさせたのだとさえ思えるほどに、自然とそれはこぼれ出た。


「けてくれ・・・」


そしてまた、長らく繁栄を抑制されてきたゴキブリ脳バチたちが、新たな子孫を残そうとすることも、自然なことだった。


黒い虫たちは、極太の蛇のように繋がってマシウに殺到した。


「だれか、助けてくれ・・・!」


その時、風が吹いた。


暗黒に包まれたジョズの街に巻き起こった小さな台風は、虹色に輝くエレメントのオーロラをまとって、マシウや、ヘイド、そして、エリーを覆い隠していた虫たちを一匹残らず彼方へと吹き飛ばした。


「・・・さあ。もう大丈夫。そちらの方々も立てますか?」


「はい・・・」

「君は・・・?ハンガーにいた」



「わたくしは、通りすがりの冒険者、・・・名を、しおりと申します。」

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