振り子誤まり
「俺とお前、二人でやれば2倍のスピードが出るはずだ!もう一回だ!セイム!離すなよ!」
メイブルは、不安を感じる程遠くにフックを掛けた。
「行くぞ!」
「はい!」
二人は同時に、ジョズの街で最も高い所にある足場を蹴って重力に身を任せ加速した。
ジョズの街のネオン看板や、いたるところから飛び出た施工不良や、ゴミなどを紙一重の所ですり抜けて、弾丸のように加速する様はまさに奇跡としか言いようが無かった。
あれだけ遠くに見えた怪盗フォックステールの後姿がもうすぐそこまでに見えてセイムは、傍らに誰もいないと思えるほど意識を集中させていた。
「セイム!!」
振り子の最高速度と周回軌道から導き出した怪盗フォックステールとのランデブーポイントに到達すると、メイプルは返事もろくに期待せずにセイムを呼んだ。
「はい!!」
「いっけえええええええ!!!」
セイムの視界はスローモーションになったような気がして、衝突の瞬間、こちらを振り向いた怪盗のマスクの奥の黄金の瞳に吸い込まれる気がした。
事実、彼は凄まじい速度で怪盗へと飛んでいた。
彼はそのまま怪盗フォックステールをふわりと捕まえた。
その時、ほとんど同時にジョズの街から量子蛍の仄かな明かりを残して、一切の光りが失われた。
セイムは、しばらくその事に気が付かなかった。
彼を正気にしたのは、フォックステールその人だった。
フォックステールは可愛く勇敢な追跡者に敬意を表して言った。
「あなた。無茶するのね?」
セイムは思わずドキリとして、彼女の声がもっと聴きたくなった。
「放しませんよ・・・!絶対にあなたを・・・!」
しかし、そんな彼の秘めたる願望むなしく、フォックステールは何らかの術を使って、拘束からするりと抜け出すとそのまま闇に溶け込んだ。
セイムは絶望に打ちひしがれた。
「セイムーー!!どこだ!!」
メイプルの声だ。
メイプルは、未だにこの闇の中を中釣りになって彷徨っている。
セイムは耳を澄まして、あてもなく彷徨うメイプルの声だけを頼りに彼を捕らえる事にも成功した。
「よかった!メイプルさん!」
「ああ、セイム」
「どうしましょう・・・・?どこかにあかりは?」
セイムはメイプルを捕らえたまま、闇に目を凝らしたが、追跡の頼りになりそうな光の類はおろか、街から人の気配すらも一切失せてしまっている気がした。
「あの人にだって見えていないはずなのに・・・・!」
「セイム」
メイプルは、真面目なトーンでセイムを呼んだ。
セイムは次に続く言葉に何となく感づいて、とても悲しくなった。
「まってください!メイプルさん!」
「セイム。セイム・・・」
セイムは観念したように黙って、発言の続きを待った。
「もういいよ。きっと、フォックステールには、暗闇なんて関係ないのさ。今回は、俺たちの負けだよ。いつになるかわからないけど、また追いかける事にするよ」
「そんな!そんな・・・!!!」
「ありがとな」
報われなかったと言うのか。
「メイプルさん!いけません!まだきっと何とかなりますよ!」
あれだけの人を巻き込んで。
「セイム、いいんだよ」
ありえないそんな事はありえない。
「メイプルさんは、一生懸命頑張ったんです!あなたの願いはきっと叶いますよ!!だって!!」
神様は、きっといるのだから。
セイムは跪いて渾身の力を体に込めた。
同時に、彼の体から小さな雷光がほとばしった。
「なんだ?!セイム・・・おまえ!?」
『ライドザ!!ライトニング!!!』
セイムの渾身のライドザライトニングは、フォールド地区の建物に次々に作用して暗闇に飲み込まれたジョズの街に眩い一筋の光の道を作り出した。
そして、それは。
「セイム・・!見ろ!あそこ!」
「まだです!まだ終わっていませんよ・・・!!」
怪盗へと確かにつながっていた。
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