世界を青く照らすもの

「この・・・!!待てっ!!」


「セ・・セイム!お前一体どうしちまったんだ!」


セイムは自分の体からあたかも無限の力が溢れているような錯覚を感じていた。


それはもちろん、とんだ勘違いである事も同時に分かっていたが、この時に限って彼の体は外からのエネルギーを直接体の筋で吸収し力に変えているように俊敏に動き、あろう事か怪盗フォックステールを追い続けることが出来ていたのである。


フォックステールは、矮小に積み重ねられたジョズの街の上層階層を固く子気味良い足音で疾走し、二人の少年はそれを見上げながら一段下のガントリークレーンのレールの上を疾走していた。


セイムは上層階層がもうすぐ行き止まりになる事を確認すると自らも彼女がいる高さまでよじ登りメイプルに合図を出した。


「メイプルさん!この先で捕まえてください!」


「わかった!逃がすなよ!セイム!」


メイプルは再びフックガンを構えるとすぐに発射し、迷わずレールから身を投げた。


セイムは、上層階層の建物のあまりの粗雑な造りに何度も足を踏み外しそうになるものの、一切減速する気配を見せぬままフォックステールの後を追った。


もう少し!

もう少しだ!


やがて、フォックステールは上層階層の今際に立ち、スラリと足を止めてセイムを見た。


セイムは足元に注意して遥か下方をちらりと見た。


するとそこでは、メイプルが流星の如き速さで夜の街を飛んでいた。


セイムはフォックステールを追い詰めた!


そして無言のまま、自分の後ろにだけには絶対に行かせないと言う決意を彼女に叩きつけた。


そうすれば・・・・。


「うおおおおりゃあああ!!!」


メイプルが、フォックステールの背後から奇襲をかけて、きっと、彼女を捕まえてくれると信じていた。

追い詰められた怪盗がメイプルの存在に気が付いて、セイムから視線を逸らした瞬間

彼もまた、飛び掛かった!


「捕まえた!!捕まえました!」


セイムは断固たる決意の元、抱き着いた痩せた体を両手できゅうと絞めた。


「バカッ!セイム!俺だ!」


「メイプルさん!?どうして・・・!」


セイムは辺りの暗闇の中から怪盗の姿を必死に探した。

そして、自分たちよりもずっと低い位置で、今もなお遠ざかっていくシルエットを発見した。


重力に身を任せて落下していく怪盗は、二人の少年が自分の存在に気が付いたのを見計らうと、キスを投げて、黒く表面の濡れた建物の屋根にまるで吸い付く様に見事に着地し再び走り去った。


「ダメだ・・・遠すぎます」


セイムは思わず弱音を吐いて、弱音と共に染み出た悔し涙をメイプルの衣服でこっそりと拭いた。


「まだだ!諦めんなセイム!」

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