The Bull’s March

「なんだ!?なんだ!?なんだ!!!!」


ぶぉおおおおお!!!!!!!


「カウチだ!!カウチ共が『ゲンソク』を突き破って入ってきやがった!!」


興奮状態に陥ったオスのカウチの集団は、ジョズの街をことごとく破壊した。


彼等は、巨大な灰色の体を前後にのたうたせ、恐るべきスピードとパワーをみなぎらせて人々を押しつぶし、建物を薙ぎ倒し、その目からは、闘争状態を表す黒い汁が分泌され、元々の彼等の穏やかな顔の造形を古の戦闘民族の様に彩っていた。


所々で地響きがして、それをかき消すように人々の悲鳴がジョズの街に響いた。




「メイプルさん!あれは・・・!」

セイムは、宙づりで高速移動しながら心配そうに下の様子を眺めた。


「はッ!上手く行ったぜ!メスのカウチから集めた『特製のフェロモン爆弾』だ!どうやって集めたのかは聞かないでくれよ!」


「でも!あんなやり方は・・・・!酷すぎます!」


理由は、なんであれメイプルが行った事は無差別で非人道的な行為だ。


「なんだと!?セイム!!場所が開いたな!一気に行くぜ!そっちを思い切り蹴ってくれ!」


しかし、もうセイムは後戻りなどできないのだった。

彼が、メイプルの指示を無視すれば、二人はたちまち壁に激突し潰れてしまうだろう。


「はいッ!」


セイムが渾身の蹴りを放つと同時に、メイプルはフックガンのスリングを急激に巻取り、加速すると離した!


「いいいいいいいいいいやっはあああああ!!!!!!!」

「・・・ッ!!!」


二人は、矢の如く乱闘に加勢した!


「怪盗フォックステール!!お前を逮捕する!!」


彼女は、マスクの奥の燃え盛る黄金の瞳でメイプルをちらりと見た。

男たちを前にして、その一瞬のよそ見は、命とりになるはずだった。


「もらったぜええ!!」

「うおおおおりゃあああ!!!」


その時、セイムはというと着地に失敗し、勢いそのまま屋根の上をゴロゴロと転がっていた。


このままでは、屋根の上から落ちてしまう!それでも、再びメイプルの見事な『早撃ち』が見れるかと思うとそんなことは2の次に思えた。


着地と殆ど同時にメイプルが射撃の体制に入っていたのを彼は見逃さなかった。


メイプルは靴底で屋根に堆積した砂を擦ると肩を怒らせ、ジャケットの両端を弾いた。


「・・・・邪魔だ!」


ダキュウウウム!!!!


メイプルの早撃ちによって体の自由を奪われた男たちは、どさりどさりと倒れて行きセイムはその様子を眺めていてそのまま屋根から転がり落ちた。


「やった!す・・!ごい!はあ・・メイプルさんっ!うあ!」


セイムはそのまま屋根から転がり落ちた。


しかし、落ちた彼は幸い、ジャケットの襟に鋭く刺さったキスマーク付きのカードによって磔にされ、地面との衝突を何とか免れた。


一連の出来事全てがスローモーションのように速度を失って、セイムには自身を救った泥棒が天使に見えた。


フォックステールはセイムが確かに固定されたことを確認すると、マスク越しに彼を見て微笑んだ。


フォックステールの微笑みは若々しく妖艶で美しく、セイムは、ドキリとした。


そして、思わず思った事を正直に口に出して伝えた。


「あなたは・・・・!とっても綺麗です。」


フォックステールは僅かにハッとして、又微笑むと、闇に溶けて消えた。


「セイム!!」


セイムが体を捻るものだから、カードの磔は今にも外れてしまう所だった。

メイプルは、慌てて彼に駆け寄って引き上げた。


「全くどうなるかと思ったぜ。お前に何かあったらジゼルに殺されちまう・・・!」


セイムは起き上がりながら、大げさな事を言うと思った。

そして、すぐに顔を上げてメイプルに言った。


「大丈夫・・・!メイプルさん早く追いかけましょう!捕まえるんです!」

「え、あ・・・?ああ!」

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