セイルキャノン!

急加速、急停止、それらがもたらす吐き気と達成感。


「ぶ・・ぶつかる・・・!」

「次は、あのクレーンつなげるぞ!!セイム!そっちの壁を思いっきり蹴ってくれ!」


セイムは、言われるままに壁を思い切り両脚で蹴った。

無重力状態の二人の少年は、再び夜空へ跳躍した。


・・・・ドンっ・・・!ドン!・・・・ドン!


セイムは、自由落下がもたらす吐き気の中で奇妙なものを発見した。


「見えたぜ」

「なんだあれ・・・?」


セイムが具体的に説明をしなくともメイプルはその疑問に気が付いたようだった。

彼は、耳元を騒がせる風に負けない声量で言った。


「あれは、この街で生み出された移動術の一つだ」


「でも!あんな!無茶ですよ!!」


「そうだ、一歩間違えれば手足が吹き飛ぶイカれたやり方だよ」


二人の遥か下方で男たちは、蟻のようにひしめき合う群衆の先端に設置されたいくつもの筒、『セイルキャノン』から夜空に向かって次々に飛び立った。

そして、その先には・・・・。


「見えたぜ、フォックステールだ!」


夜の街を駆ける怪盗フォックステール。


彼女の行く先を阻むのは、地上より打ち上げられた荒くれ者たちだった。


彼らは過剰なエネルギーを宙返りで消費すると、屋根の上にしゅるりと着地して、同時に、自慢のフックと先端が曲がった小さな短刀カットラスを煌めかせ、踊る様に四方からフォックステールに襲い掛かった。


しかし、フォックステールは時折見えなくなる程鋭く動いて影のように男たちをすり抜け、時に踵の棒で踏みつけ、背中をちょいと押して建物から落としていった。


男たちが散り際に放った沢山の照明弾が夜空に向かって上がると、そこを目印に次々と新たな荒くれたちが前線に投入されていった。


やがて、鋭さを増した男たちの刃が一太刀、もう一太刀と彼女に掠る様になり、遂には彼女を取り囲み、フォックステールは完全に逃げ場を失った。


「仕方ねぇ!」


メイプルは苦々しく歯を食いしばると直近の手頃な足場に着地して、押し込み式のボタンが一つついただけの小さな機械を取り出してめいっぱい掲げた。


しかし。


「ダメだ!ここじゃ遠すぎる!セイム!俺を持ち上げてくれ!」


「はい!」


セイムは言われるままに、メイプルに抱き着いて思いきり持ち上げた。


装置のランプがアクティブを知らせるものに変わると彼は迷わずボタンを押し込んだ。


「よし!!降ろせ!」


「・・・もういいんですか?」


メイプルは乱れた服を直して再びフックガンを構えた。


「邪魔者はこれでいなくなる。後は、奴を捕まえるだけだ!」






ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・。



「なんだ?」


ジョズの街は、紛れもなくマシウの領域だった。

この街で、彼の知らない所は無く、また、彼は発生するトラブルの原因の全てを知っていた。


しかしそれは、新たなトラブルが発生するまでの話である。


マシウは、念のため海沿いの自室に隣接するガンルームにしまわれた武器の数々を点検し、主なきそれらが気高く横たわり昨日と同じく埃をかぶっている事を確認していた。


あの泥棒が盗んだものは、製錬中の『ブルーバードの結晶』だ。


どこでその事を嗅ぎ付けたのかは知らないが、たとえ盗まれたとしても、又作り直せばいい、時間は常にマシウに味方しているのだ。

それに、『元々存在していない事になっている物』である以上、無くなったところでそれほど問題は無いのだ。加えてあれは、教会の物に比べて純度が低く、すぐに崩壊を始める事だろう。


ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・。


やはりおかしい、尋常ではない地響きが聞こえる、それも丁度この上の埠頭から。

ガンルームから出たマシウは、靴底に底知れない不安を感じた。


「水が、流れ込んでいる・・・!?」


マシウは、急いで隔壁を閉じて、機関室へ走った。


『マシウ様!』


途中、通路の向こうから2体の自動端末が現れた。

彼等は、教会から送られて来た偵察機械のくせに、今まさに危機に瀕したこのジョズの街を心配して慌てているようだった。


今回の一件も、あの怪盗も、彼らが一枚かんでいるに違いないのだ。


「なんだ!」


マシウは、いつものように威厳のある態度を示そうと努めたが、内心彼等には今すぐにでも消えて欲しいと思っていた。


2体の自動端末は、今にも額に汗でも搔き始めそうな程焦燥した様子で言った。


「カウチたちが!」

「堤防を破壊して街に侵入してきました!!」


「・・・・なんだと?」

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