盗まれた風

「あれは・・・。もしかして・・・!!」


男たちからみるみる血の気が引いて行った。


小さな悲鳴が一声でも上がれば、人々は慌てふためきこの地は再び混沌に包まれたであろう。


「狼狽えるな!!」


混沌を停めたのは、またしてもマシウだった。

彼は、内心歓喜し焦燥し、また、ひりひりと焼け付くような極上のスリルを久しぶりに味わっていた。


「ヘイド、アリー。下での作業を停止させ伝えろ、『パーティーが始まる。』と」


「承知いたしました」


「マシウ様」


二人の自動端末は、エレベーター脇の制御盤を外し、隠されていたレバーを操作した。

すぐに到着したエレベーターは、ハンガーの更に下の闇の中へと、吸い込まれていった。

マシウは、高らかに声を上げた。


「お前たち!俺たちが誰かから何かを奪ったか!?」


男たちは、少年のように澄んだ瞳で立ち上がった。


「いいや・・・」

「せいぜい・・・。借りただけだ。へっ!」


「そうだ!俺たちは、だれからも奪わない!必要なものは全部自分たちで手に入れててきた!これからもだ!!よって、俺たちから何も!自由も!夢も!ロマンも!何一つ!奪わせるな!!」


しかし、その場には、明らかな熱の差があった。


マシウの言葉を聞き、動き出すものは誰一人として居なかった。


まるで、夜明けの風を待つ鳥のように、男たちはマシウを静かに見た。


マシウは、歓喜した。


「『セイルキャノン』の使用を許可する。」


男たちは歓喜した!


そして、各々が最も無くす心配のないであろうと思われる場所にしまっておいた鋼鉄のフックを取り出し、一斉に地上に投げた。


男たちは、フックの紐の強力な弾性を利用し宙を舞ったのだ。


それから間もなく、街中に警鐘が鳴り響いた。


「下の量子蛍をたたき起こせ!!!エレメントを操作できる奴は、照明弾を上げろオオオ!!!」


ところどころでそんな怒号が聞こえた。


物陰に身を寄せていたセイムは、勇ましく宙を舞う奇妙奇天烈な男たちに見とれて、殆ど外に体を晒していた。


そんな彼の服の袖を、誰かが摘まんだ。


「おいセイム」


メイプルだ。


「・・・・はい」


「手伝ってくれよ、あいつを、フォックステールを捕まえるんだ!」


彼は目を煌めかせてセイムに哀願した。


「え、そんな・・・!僕なんか、で。いいんですか?ジゼルさんやデイヴィッドさんの方がきっと。頼りに・・・」


セイムは遠慮がちに体をくねらせたが、実のところ嬉しくて仕方がかなった。

夢にまで見たルーシージャックの任務に同行する事が出来るなど、彼にとってこれ以上ない誉れだった。


メイプルはそんな彼の手を乱暴に引いた。


「いいや、お前がいい。行こうぜ!ほら!」


セイムはもう悩まなかった。


「はい!」


メイプルは、秘密道具が隠してあるジャケットから『高性能フックガン』を取り出して構えた。


そして、このフックガンは密かにセイム憧れのアイテムの一つだった。


「あ・・・待って!!」


「悪いなジゼル!このフックガンは二人用なんだ!」


「ジゼルさん!行ってきます!デイヴィッドさん!ジゼルさんをよろしくお願いします!」


二人の少年は前触れも無く花火のように打ち上がり、夜空へ吸い込まれて消えていった。


「ああっ!・・・・もうっ!・・・・・・・・・セイムさん、がんばって!」

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