引き金
『いいかげんやめるんだ!!!!』
甲高いノイズと共にハンガーに響いた声は、ジョズの街の統括保障管理責任者であるプレイヤーのマシウのものだった。
マシウはいつもの自動端末2体を携えて、エレベーターが到着する前にその場の者すべてに対して忠告をした。
彼の姿を見るなりハンガーの荒くれ者たちから見る見るうちに狂気が失せて、白けて行った。
彼等は、自分たちが起こしたこの騒ぎのせいで、明日、自分たちがどうなってしまうのかを既に知っているのだった。
マシウは燻るガヤの中、高らかに声を上げた。
「初めに発砲したのは誰か?」
すると、ハンガーはしんと静まり、多くの者が視線を集中させた先に顔をぼこぼこに殴られた後のダンカンがいた。
マシウと自動端末2体は、眼光を一層鋭くして荒れ果てたハンガーをすっかり慣れた足取りでまっすぐ進み、ダンカンのすぐ前に立った。
ダンカンは、たくましい体躯で一杯に虚勢を張って、追い詰められたネズミのように容赦ない態度を示した。
そして、彼の片手には未だにエクスプロイターが握られていた。
マシウは少しも怯むことなく言った。
「君には明日一日、反省室で過ごして貰う事になる。本来ならば5日間の所だが時期が時期だ。いいな?」
「へ・・・。野郎反省室行きだとよ」
誰かがそう言うと続けて誰かが。
「笑えるぜ」
「良いざまだ」
「死ぬまで入ってりゃいいんだよ」
そんなような事を口にした。
するとダンカンは、こめかみに血管を浮き出させて群衆に向けてエクスプロイターを振りかざした。
「うるせぇ!!誰だ!てめぇか!このヤロウ!!」
「よすんだ」
「うるせぇ・・・!俺は誰の命令も聞かねぇぞ!」
ダンカンは一歩踏み込んだマシウにエクスプロイターの銃口を向けた。
『マシウ様!』
「いい!じっとしていろ」
マシウは、続けた。
「君は、確か『ダンカン』だったな。これ以上、騒ぎを大きくするのは、君のためにもならない。プロフィットボーイズの来航も控えている」
テーブルの影の二人は、その時ハンガー全体が何かを期待するかのように生唾をのんだような気がした。
しかしダンカンは、エクスプロイターをしまうどころか、マシウに向けて突き出すように言った。
「俺に。指図。するな・・!」
マシウは、顔色一つ変えずに人差し指を立てた。
それから、迷いなく突き付けられた銃口に指を差し込んだ。
「・・・何のつもりだ・・・!」
「引き金を引いてみろ。銃は暴発する」
群衆は、どよめき、そんなはずは無いとせせら笑った。
マシウは、微動だにしないまま続けた。
「エクスプロイターは、発生させるエネルギーの殆どを外部のエレメントに依存している。それは、小型化されたらせん状の高速増殖加速装置で内部で亜高速までに加速されて銃身から外に飛び出ると同時に辺りのエレメントをプラズマ化させ熱を生み出している。つまり、銃内部では、その力は、ごくごく小さなままだと言うわけだ。ちょうどこの指一本で止められるほどにな。そのエクスプロイターはずいぶん粗悪なようだな?見た所セーフティーも無い。出口を塞がれたエネルギーは、一体どこから出るんだ?」
誰もが動きを止めて、ダンカンのエクスプロイターに注目した。
彼のエクスプロイターは、たちまち貧弱で、工作精度の低い粗悪品に見え、誰もが『何故もっときちんと作らなかったのか?』と心の中で咎めた。
「・・・ハッタリだ!」
ダンカンは、トリガーに指をかけたまま銃口を2度突き上げた。
「ならやってみろ。シリンダーの亀裂からエネルギーが漏れ出して、俺も君もただでは済まないだろう。それに」
マシウは、床を眺めて、足元をぴちゃりと鳴らした。
「ここをどこだと思ってる?」
人々の嗅覚は咄嗟に覚醒し、辺りに立ち込めるむせる程のアルコールの匂いを一杯に吸い込んだ。
「みんな死ぬんだ」
火を消したように静かに、うすら寒くなったハンガーで、人々は固唾を飲んでダンカンのエクスプロイターの、引き金に掛けられた人差し指に注目した。
ダンカンに見て取れるほどの動揺が広がりつつあった。
彼が何かを言う前に、マシウは言った。
「それに」
マシウは、続けた。
「君のその体は、何故そうなった?」
ダンカンは、目をぎょっと見開いた。
それからすぐに、人々から緊張が抜けて、後悔だけがその場に音も無く漂った。
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