仕返し
麻雀とは、4面子1雀頭その組み合わせやスピードを競うゲームである。
「ツモ。メンタンピン三色ドラドラ。跳満」
『ッ!』
二人の顔は赤くなり、次第に青くなっていった。
赤子の手をひねるような馬鹿勝ちである。
「・・・続けましょうか?セイムさん?」
「・・・・どうしましょう?」
「続行だ!続行!」
「よしなに。」
セイムは麻雀のルールすら知らないど素人以前の状態だった。
しかしながら、ジゼルからのアドバイス通りにテーブルに並べられているものと同じ模様の駒を(このコマの事をパイと呼ぶがセイムは恥ずかしくてそう呼べなかった。)出来る限り自分の手牌から切っていた。
そうしていると。
「ロン!!それだ小僧!へへ・・・。ようやくツキが回ってきたな・・・」
「ロン。
『ッ!!』
決まってジゼルが上がるのだ。
セイムはSWEにおいて、『運』と呼ばれる隠しステータスがある。
という風の噂を昔どこかのキャラバンで耳にしたことがあった事を思い出していた。
やがて、場違いな若い少女の凛々しい声につられて、周りの大人たちが少しづつ彼らの周りを取り囲みはじめる。
「おおい、『ダンカン』ずいぶん景気がいいじゃねぇか?なぁ」
「お嬢ちゃん歳いくつだい?」「餓鬼のくせに腰の重い打ち回しをするじゃねぇか。ええ?腰の重いよぉ」「いっぱいおごれよ?」「イカさましてんじゃねぇだろうな?」
そして。
「ああ。ダンカン。ああ。お前次は『どこ取られんだろうな?』」
いくつものろくでなし達の、この発言が引き金になった。
突如ダンカンは豹変し、ギュッと目を見開いて震える声で叫んだ。
「誰だ!今言った奴!誰だ!」
周りの大人たちは、一度どよめいて、すぐに静かな冷笑をダンカンへ向けた。
「誰だって言ってんだ!!」
大の大人があまりの剣幕で激怒したので、ジゼルとセイムは何かとても悪い事をしてしまったような気がして小さくなり、事の顛末を見守った。
ひときわ大きな声で騒ぎ始めたダンカンは、いよいよ、孤独に耐えかねて地面をける様に椅子から立ち上がるとジャケットの中から『エクスプロイター』を抜いた。
大人たちは再びどよめいて、それからさっきよりも大きな冷笑を彼へ浴びせかけた。
ダンカンはいよいよ恥辱にも耐えかねて、銃口を出鱈目に向けるとエクスプロイターの引き金を引いた。
放たれた弾丸は、幸いにも誰にもあたることは無かった。
しかし。
「てめぇふざけやがって!」
手に持っていた注ぎたてのジョッキと食事を黒焦げにされた男もまた立ち上がり、エクスプロイターを抜いてろくな狙いも定めないまま撃った。
やがて、数分とたたぬうちに放たれた一発の銃弾は、核分裂の連鎖反応ように連鎖して、ハンガー全体を巻き込む大乱闘へと発展した。
セイムとジゼルは、テーブルを横に建ててその隙間に身を寄せ合って隠れた。
そんな彼らの前を、自動端末のドーム状の頭部や荒くれたちの機械の部品や麻雀の牌などがゴロゴロと転がった。
「ジゼルさん!?どうしましょう!?」
「え。ええ、今は、じっとしていましょ?!セイム!」
怒号と、エクスプロイターの銃声と、ものが叩き壊される音は割れんばかりにハンガーに響き渡り、床や壁をどかどかと踏み鳴らし揺らした。
やがて、人々は次第に思いのまま怒りをふるう事に対して愉悦的になり、いたずらに暴力を楽しんだ。
人々の行動の一つ一つが取り返しのつかないものになり始めた頃、乱闘のボルテージは正に限界を越えようとしていた。
テーブルに置かれていた物は全てぶちまけられて、その場の男たちの誰もが顔面に誰かしらの強烈な一発をもらっていて、壁や天井にはエクスプロイターによって開けられた溶けた穴が無数に開き始めていた。
そして、その場の誰もが求めていた落としどころを見計らったかのように、拡声機越しの少年の声が高らかに広い空間に響き渡った。
『お前ら!!そこまでだ!』
数名の大人たちと、セイムとジゼルは、反射的に声の方を見た。
メイプルだ。
メイプルは、太陽のような照明を背に、3階から飛び降りると、大きなテーブルの上のトークンを蹴散らして着地した。
「全員、そのエクスプロイターを没収するぜ。出所も吐いてもらう。どうせ、ここで作ってるんだろうがな!」
近くの男たちは、咄嗟に彼にエクスプロイターを向けた。
その数、約7名。
「後悔するぜ」
マイプルは、ジャケットの裾を広げた両手で弾いて肩を僅かに怒らせた。
3・・・・。
2・・・・。
1・・・・。
ダキュウウウム!!!!!!!
響いた銃声は一発だった。
しかし、倒れた男たちは、7名!
その中には、メイプルの真後ろの者や2階にいた者もいた。
だがしかしハンガーの中には何十という数の荒くれ者がいるのだ。
それらの幾人かはいち早く乱入者の危険性に気が付いてメイプルに向けて優先的に発砲した。
メイプルは横に飛び、人込みに紛れてセイムとジゼルの隠れるテーブルの影に転がり込んだ。
二人はメイプルを暖かくテーブルの中へ迎え入れて興奮気味に言った。
「メイプルさん!あれ!すごかったです!どうやって!」
「大変なことになってしまいましたわ。どういたしましょう?」
メイプルはゴーグルとマスクを剥がして素顔を晒す事で二人を落ち着かせた。
「まぁ落ち着けって。ようやく尻尾を掴んだんだからよ。お前らのおかげだ」
「僕たちの・・?」
「おかげ?」
その時、テーブルの切れ目から腕が伸びてメイプルを捕まえた。
「そうさ・・・うあっ!うああ!!」
「メイプルさん!!」
「危ない!セイム!」
メイプルは、大男に軽く掴みあげられてそのままテーブルへ叩きつけられた。
男は目を充血させ、ねばつく唾をまき散らしながら熱っぽく言った。
「あいつには、借しがあったんだ。お前のせいでそいつがパーだ。こんな事したって何の価値もねぇが落とし前はつけさせてもらうぜ」
大男は、端の方で倒れている男を顎で指して自らのエクスプロイターを抜いてメイプルに向けた。
そして、容赦なく引き金を引いた。
ダキュウウウム!!!!
弾丸は、メイプルには命中しなかった。
何者かが、盾となり、メイプルの前に立ちはだかったのだ。
具体的に誰かと言えば彼の相棒、B級メイドタイプの自動端末のロドリゲスだ。
強化されたエクスプロイターの一撃をまともに食らったロドリゲスの胴体は張り裂けもくもくと黒い煙を上げた。
そして、衝撃で斜めに傾いて発光していたパーツも暗転しピクリとも動かなくなった。
「そんな・・・!ロドリゲスさんが!」
「セイム伏せて!」
「でも!」
凶弾飛び交う危険地帯へと自ら飛び込まんとするセイムに、メイプルは、大変つまらなそうな口元を見せた。
その瞬間も彼には、いくつもの銃口が向けられていた。
「・・・」
セイムは間に合う訳が無い事を百も承知でテーブルの影から飛び出してメイプルを救おうと身を乗り出した。
「メイプルさん!そこは危険です!」
メイプルは必死な様子のセイムに気が付くと、つまらなそうにしていた口元をニッと開いて白い歯を見せて笑った。
「安心しろセイム。大丈夫だ。なんでかって?」
バリバリ・・・・。バリバリバリ・・・!!
「こいつがいるからさ。来い!アーマロイドロドリゲス!」
割れたロドリゲスから現れた『人型』は凄まじい力と正確さで動き、銀色の手の平で飛来する弾丸を全てはじき返した。
見覚えのあるシルエットに二人は驚愕した。
「あれは!?」
「でも!どうして?!」
テーブルの影にいた二人は、目を丸くしてお互いを見合って、今まさにメイプルの命を救った者の堂々たる勇士を見上げた。
あれは、
あの機械人形は!
『デイヴィッドさん!?』
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