心のやけど
「美味しい、昨日よりも・・・。とても・・!」
それは、お世辞などでは無い本心からの言葉だった。
味に慣れてしまった事が理由の一つかもしれないが、セイムは昨日、慌てて貪った物に比べ今日の物からは燃料のような『臭み』がまるっきり感じられないと思っていた。
彼はたまらず、熱々の肉の汁のついた指をぺろりと舐めて香辛料の香りを楽しむと、カウチの肉で出来たソーセージに噛り付いた。
ジゼルも美味しそうに半分食べて、残りを紙に包んで腰の旅ポーチにしまった。
ジゼルは、その残りをわざわざメイプルに取っておいてあげるのだと言うので、セイムは訳もなく、ほんの少しだけ不愉快だと感じた。
「ごちそうさまでした。ジゼルさん、もう少し休んでいきますか?」
セイムは包み紙を丁寧に折りたたみポケットに入れた。
「ええ、そうしたいのも山々ですが、せっかくの商いの邪魔をしてはいけませんから・・・。おじさま、ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
二人は屋台を後にして、中央通りと呼ばれる区画をあてもなく目指した。
「俺を見てくれぇええええ!!!おれをおおおおおみろおおおお!おれをおおお・・・」
濡れた地面と真っ黒な壁に反響して、どこからともなくそんなただならぬ雰囲気の嘆きが聞こえて来た。
二人は胸騒ぎがして声の主を急かされるように探した。
自然と早足になる頃にたどり着いた区画のカードゲームに興じている酔っ払いや、お互いの写しガラスを見せ合い、にやけ合う男たちがゴミと共に散らばる少し空が開けた場所に人が燃えていた。
「見てくれ。おれを!」
男は、泣きながら何度も何度も地面を両手で叩いた。
セイムはすぐに駆け付けてジャケットで火を消した。
「おれを・・・・おれを。おれは本当にアルメリアの火に耐えたんだよ・・・」
「大丈夫ですか?どうして・・こんな」
セイムに向けられたのは周りの大人からの冷ややかな視線だった。
燃えていた男は黒焦げになって耐えがたい匂いを放っている。
ぼそぼそと呪文のように何か口にするたびに、ピンク色の口内が焦げから覗くのでセイムの心は掻き毟られるようだった。
男がすっと立ち上がって言う。
「ほっといてくれよ。がき」
男は、そう言うとセイムとは目も合わせずに、耐えがたい匂いだけを残してどこかへ消えていった。
それからしばらくの間、二人はこの恐ろしい体験について、議論する事をしなかった。
まもなくして、ジゼルは僅かな夜空をびっしりと覆い隠している沢山の発光看板の中からHANGARと書かれた看板を見つけ出したのだった。
有象無象がひしめき合うこの街で珍しく広く平らにならされた人口の地面から直接生えているような建物こそが二人の探していた。もとい、昨日の男が言っていた店の入り口だった。
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