よそ者

二人は結局メイプルの部屋で(夜までとは言わないが)しばらく過ごすことにした。


その決断を決定的なものにしたのは、二人がオートロックの扉を内側と外側に分かれていたずらに開閉させている最中に、奇妙なものを目にしたからだった。


それは、昨夜メイプルが二人の衣服を叩き込んだクリーニングクローゼットの内部に広がるおびただしい数からなる小さな虫の巣である。


二人はこう言ったものを見つけると、その気になれば文字通り一日中見ていることが出来たのだった。


ジゼルがどこかに隠し持っていたクラッカーを砕いて巣穴の上に落とすと、小虫の集団たちは歓喜したように活発になって巨大な食糧の塊を小さく砕いて運搬した。


二人は、まるで神様にでもなったかのように愉快になって、セイムが出来心からライドザライトニングを試してみると、彼の穏やかな期待を裏切って、虫達はたちまち整列し、加えて、青白く発光してせわしなくなったので、ジゼルは横暴な彼の行為を少しだけ咎めた。


そうしているうちに、あっという間に時間が過ぎて夜がやってきた。


昨夜と同等かそれ以上の放埓な騒音が建物に響き渡ると二人は

お互いでお互いを隠すようにホテルマンボウを後にした。


「なんだか、昨日よりも賑やかになったような気がいたしますね」


「はい。まだ、皆さん酔っていないからでは無いでしょうか?」


ジゼルは、セイムが急に『この街の人々は、もれなく全員が酔っ払いだ』ともとれる失礼な事を言ったので、思わず失笑した。


二人が鳴りやまない街の喧騒や、怒号の合間に何処か牧歌的な雰囲気を感じたのは、この街に慣れてしまったのかもしれないし、そうでないのかもしれない。


行く当てのない二人の若者は、人の優しさを知った野良猫のように昨日の『ジョズのホットカウチ』の屋台へと向かった。





 ホットカウチの屋台には、相変わらず義足の大きな男が不機嫌そうに立っていた。


しかし、今回は少しだけ毛色が違っていた。


「椅子だ」


セイムはぽつりとつぶやいた。


殺風景だった屋台の前に古く小さな銀色の椅子が2脚、新たに設置されていたのだ。

それを見るなりジゼルは小走りになって目を輝かせて義足の男へ駆け寄った。


「おじさま。ジョズのホットカウチを二つ下さいな?」


義足の男は、不機嫌なまま支払いが先だと言った。

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