白い粉

少し前から滞在しているこの部屋は古く、寒々とした物だったが、今日に限ってはいつもよりましに思えた。


幾つかの候補の中から唯一シャワーのあるこの部屋を選んだのはただの直感だったが今回もそれがいい方向に働いたことにメイプルは柔らかな幸福を感じていた。


「ふぁ・・・ああ・・・。それで?ハンガー?行ってみればいいんじゃね?」


メイプルは下着姿のままバッグの中から取り出した小箱の中からタブレットを一粒口に放り込んで目をこすった。

すっきりとした甘さの唾液が口内に広がると、今度は昨夜からの同居人である二人に向かってタブレット入れを差し出した。


『いただきます』


二人はもごもごと口の中でタブレットを転がして、不思議そうな顔をしてメイプルを見てなんですかと言った。


「サッカリンだよ。でもよお前ら、夜までどうすんの?」


「さっかりん?なんだか歯磨きみたいな味がしますわね」


「いっとっけど。昼間は、誰も外にいないと思うぜ?」


メイプルは、皺だらけのシャツに頭を通して、ズボンを履いた。


「それなんですが・・・」


セイムは、口内で絶えず不自然な甘さを放ち続ける物を早々に飲み込んで始末して続けた。


「なぜ街の人たちは、夜にならなければ現れないのでしょうか?昨日の夜は、本当にたくさんの人達を見ました。あの人たちは、一体どこから来たんですか?」


「ここの連中はなセイム。昼間は地下で働いてんのさ。」


「地下で?」


セイムは、昨夜の放埓な人々が自分と同じように毎日泥や埃にまみれて働いている姿を想像し、急に親近感がわいた。

と、同時に『その事を知っていたらもっと異なる態度を示す事も出来たのに』と、後悔もした。


メイプルは二人との時間を惜しむ様子を一切見せないで丈夫そうなブーツの紐を締めて立ち上がった。


「この部屋は、オートロックだから。一度出たらお前らは戻れない。夜になるまで外にいてもいいし、何なら、夜まで部屋にいてもいい。それと」


ひとしきりの準備が整うとメイプルはシャワー区画の方に入っていった。


「ジゼル、お前この粉は何だ?」


セイムは気になって曇りパネルの中を覗いてみた。すると、シャワー区画の隅の方に白い粉が小さな山になって盛られていたのだった。


「ああ、それは、お水にいろいろ混じっていましたので、体を洗う時に綺麗なお水とそれとを分けたんですの」


メイプルは小さな白い山をじっと睨んでふうんと言った。


「まぁ、良いけど。こんなの流したら詰まっちまうから、次からは、何処か片付けやすいとこにまとめとけよ?」


メイプルがすべてを言い終わる前にジゼルは素早く動いて二人の元へと向かった。


「ごめんなさいメイプルさん、すぐに片付けますね」


「いや、今回は俺がやっとくよ」


メイプルは、白く盛られた塊を皮袋に詰めてバッグに入れた。





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