未登録の二人
その後二人が日を跨いでしまう前にメイプルから聞いたホテルに辿りつけたのは、幸運や彼らの隠された能力のおかげなどでは決してなく、街の空にまるで網目のように交錯する沢山のネオンサインの中からジゼルが現実世界の魚『マンボウ』を見つけたからであった。
この頃になると二人の眼は、すっかりこの街の景色に慣れて、酔っ払って道で横になる者や、外した片目のメンテナンスをする者などは気にならなくなっていた。
かわりに、黒ずんだ緑色や灰色の壁にしか見えなかった地上の風景の多くが、実は、大勢のプレイヤーたちの商いの場になっていることに気が付いて、俄然それらに興味が湧いた。
セイムは、ホテルに着くと妙な臭いのモヤが充満している狭いエントランスで置物のように座っている受付の従業員らしい人物に声をかけた。
「こんばんは、僕達、今日このホテルで宿泊する予定の方に会いに来たんです。用が済んだらすぐに出ていきますので、お部屋に入れてもらってもいいですか?」
セイムも、ジゼルも、現実世界でこういった宿泊施設を利用した事が何度かあったかも知れないが、何らかの交渉を行って来たのは当然彼らの保護者たちだった。
セイムはいつものように慎重に、出来る限り礼儀正しく、相手の気分を害さないように言葉を選んで声をかけた。
このスカイワールドエクスプローラーの世界では、個人単位での『法』が存在していると言っていいのだ。
受付台の人物はセイムを白い目でのろりと見て、赤く塗られた厚い唇で管のついたタバコを咥えた。
すると受付台の奥に飾られた球状や円柱状のガラス容器の中の液体がブクブクと沸騰したようになり、それが収まると同時に受付台の人物はわずかな唇の隙間から、真っ白い蒸気を吐き出した。
「サービス品は?」
受付台の人物は不躾にそう言って、同じ動作を繰り返し始めから行った。
「え・・・・?」
「サービス品は?」
受付の人物がさっきより急かすように強い語気で言ったので二人はびくりと体を縮ませた。
「い、いえ、いりません」
「・・・。入んなさい」
受付台の人物は小さく舌打ちして、目も合わす事無く通路の扉を遠隔操作で開錠した。
扉は頑丈そうな金属の格子で出来ていて、通路の奥は上り階段になっていた。
「もしトラブってウチに泊っただなんて言ったらただじゃおかないよ」
あまりの迫力に二人はすぐに返事をしてうなずいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます