カウチのジョズ加工工場

巨大なバーミールを後にしたメイプルとマシウ両名は、歩くたびに小さな水音を立てながら暗く狭い路地裏を進んでいた。


「知っていますか?」


「何をだ?」


「この街で、誰かに乱暴されそうになった時は『助けて。』ではなく『火事だ。』と言うんです。『火事だ。』と言えば人は来るが『助けて。』では誰も来ない」


「へん、望むところだね」


足元の水音が次第に無視できないものになっていき、メイプルは地獄の入り口に段々と近づき始めているような気がした。


しかしながら、彼に恐れるものなど何もなく、いかにぬかるみであろうと、剃刀で満たされた道だろうと、ひるまずに邁進まいしんするだけの確固たる決意があった。


やがて二人は冷たい金属で出来た一枚の扉の前へとたどり着く。


「頭に気を付けてください。本来ならば専用のクリーンウェアの着用が義務付けられている区画です。最も、ここで加工された物がどうなるのかを知っていますから誰も守ったりしませんけどね」


この扉の先には、確かにこの街の内側が広がっていて、それは、この余所者が求めていた答えであると同時に、マシウにとって他人に知られてしまうと都合の悪い事実なのかもしれない。


マシウは分厚い金属の扉の開閉レバーに乗せられた手の平に、冷たい冷や汗を感じていた。


ちょうど、この街の地面のようにマシウの手の平はうっすらとのだった。


「もし俺の探していたもんが見つかったら、その時は覚悟してもらうぜ?」


「よしなに」


グア・・・・ギィイイイイ・・・・。


ひんやりと心地よい。


マシウは、今が暑い季節である事を思い出し。これからは、諒を求める為にここを訪れるのも悪くないと思った。


「さぁ、そろそろ何を探しているのか教えてくれてもいいのでは?」


「焦るなよマシウさん、その時になれば嫌でもわかる事だ」


分厚い金属の扉の先は、先の見えない空中廊下になっている。


下から見れば錆びだらけでいつ落ちてもおかしくない程老朽化しているように見えるが、定期的にここを訪れるマシウは、この廊下が実に健全であることを良く知っていた。


マシウは天井擦れ擦れの高さに渡された通路から、わき目もくれずに働く労働者たちを見おろした。


「ここは、捕獲してきたカウチを加工する区画です。彼らは、習性状オスの個体が大量にあぶれてしまいます。ですので年老いて動きの鈍くなったカウチのみを狙って捕えています」


「教会の言う。『より優しい選択』ってやつか?」


「ええ」


扉は防音になっている。


それは、内側でどんな騒ぎがあろうとも外の者をお騒がせしないためだ。

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