ネズミのハンバーグ
「今回の徴収金額は、308万7530クレジットだ」
屋台の大男は、マシウと彼が引きつれている2体の自動端末に目もくれず、不機嫌なため息を一つついてクレジットを差し出した。
ぽぽろん♪
「いいだろう、君はまた一つ義務を果たしたな。これからも、この街の多くの住民と社会の為、俺に力を貸してくれ」
マシウの期待に反して、屋台の男は無表情で冷静そのものだったので彼は内心酷くガッカリしていた。
「マシウ様。本日の予定は・・・」
「たまたま・・・」
その場を去ろうとしたマシウの背筋に冷たい言葉が投げかけられて、彼はゾクリした。
そして、次につづく言葉を心待ちにした。
「たまたま運が良かっただけのぽっと出が・・・」
屋台の男はそれ以上続きを口にしなかった。
彼は、がっくりと肩を落とした。
しかし実際にその落胆が外見に現れることはまるで無い。
「今日の予定は以上だったな?」
「はい」
「その通りですマシウ様」
「ではこの場を持って業務終了とする。先に戻っていろ」
「はい」
「マシウ様」
マシウは人気のない『
踵を返し、行きつけのこの街で最も古く大きなバーミール(酒や飲食物を提供する店)へと向かった。
古ぼけて、燃料とカビと生臭さと、いつもの匂いが立ち込めるバーミールの入り口は、半2階の位置にあって、スイングドアーを押して入店する彼の姿を、ホール全体の酔っ払いたちが白い目で見上げて盃を傾けた。
中には、彼の姿を見るや否や立ち上がり、これ見よがしに会計を行う者もいた。
彼はいつもの落書きと吐きかけられた唾にまみれた特等席に腰かけて、片足を機械の部品に付け替えたバーテンダーにいつもの注文をした。
バーテンはカウンター裏にどんと置かれた樽に直接ジョッキを突っ込んで中身を掬うと素っ気なくマシウの前に置いて、彼を尻目に恨みのこもった口調で言った。
「負けとこうか?いっその事この場で取ってくかい?ええ?」
バーテンの悪態にマシウはこの日も愉快な気持ちになった。
「いや、また今度」
マシウはそう言って、早速注がれたジョッキを傾けた。
最高にまずい酒だ、現実世界のいつも飲んでいる少しだけ高価な缶ビールが懐かしい。
「あんた。マシウさんだろ?」
この街で自分の事をそう呼ぶ者はあの自動端末2体だけであることをマシウは知っていた。
他の者は、彼の事をクソったれだとか、成り上がりだとか、犬だとか、とにかくそんな酷いあだ名で、必要最低限の際のみに彼を呼称した。
しかし彼にとってそのようなことはどうでもいい事の内の一つだ。
「そうだが。君は?」
声の高さから察するに、この人物が少年であることをマシウはすぐに見抜いていた。
「俺が誰かなんでどうだっていい、こいつを見ればわかるだろ?」
少年はポケットの中から鈍く光り輝くエンブレムを取り出して見せた。
ルーシージャックの物だ。
そうともしらずせっかちなバーテンが粗暴に言う。
「おい、待合所じゃねえぞ」
「ああ、悪かったすぐ済むよ」
「おい!」
「わかったよ、こいつと同じものをくれよ。支払いはこいつに付けといてくれ」
彼は年を取った大人よりも、経験不足で愚かな若者の方がよっぽど危険な存在であることを知っていた。
彼はすぐに内側で臨戦態勢を整えて、今日は、捕獲したカウチの加工日だったことを思い出していた。
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