ろくでなしの街

濡れて鏡のようになった地面と、そこら中に張り巡らされたパイプから漏れる液体が放つ光によって照らし出される大勢のプレイヤーたちは、誰もが無軌道で奔放ほんぽうだった。


男たちの殆どは腕や足などの体のいづれかの個所を機械のパーツに付け替えて、仲間同士で酒を酌み交わし、貨幣と思わしきトークンの詰まった灰皿を傍らに置いてゲームに興じて、邪悪な笑顔を浮かべると決まって欠損したギザギザの黄ばんだ歯が並んだ口内を晒した。


女たちは、男たちよりも一段高い場所で、赤い光の中、直接色を塗った豊満な体を波打たせ艶めかしく踊った。


辺りに充満する悪臭は、紛れもなく人またたびと、下水と、工業用の油と、発酵が進みすぎた醸造酒と、強い花の香りと、人間の汗と垢が酸化しきった耐えがたい物だった。


また、どこかで始まった殴り合いの喧嘩はいたるところで連鎖して、先に地面に伸びた方は、周りで傍観していた人間たちに堂々と持ち物をすられたが、それを咎めるものは誰も居なかった。


そのような人間が一人二人ならまだしも、現在見えている街全体がそう言った有様なので、初めて訪れる地で余所者であるセイムはこの街に根付く者たちのあまりのも退廃的で堕落した様子を一つの文化として認めざるを得ず、また、同時に彼らとは理解し合える人間だとまるで思えなくなった。


この時セイムは、先ほどジゼルが口にした郷に入れば郷に従えと言う言葉を思い出していた。


高温に熱した油に何かが放り込まれて水分が暴力的に弾ける音を皮切りに、二人の若者は意識の彼方に忘れてきてしまった本来の目的を思い出した。


「えぇと、えぇと、揃えられそうな物から場所だけでも調べておきません事?」


「え。ええ。そうですね」


しかし、どこを探せと言うのだろうか?


この膨大な情報量を持つ街全体の何処になにがあるかなど。


そこかしこでゲームの掛け金が払えない事を発端に暴力沙汰が起きて、頑丈なテーブルや椅子が怒号と共に音を立て。


金属製の個人用のカップと灰皿が飛び散った。


これらがなぜ、個人所有の物と特定できたのかと言えば、誰もが決まって腰から紐にくくった状態で携帯しているのをずっと見て来たからである。


全員そうかと思えば、またほかの誰かが耳に心地よくない演奏と歌声で『愛』を説いていたりもした。


それを蔑む者、笑う者、ゴミを投げつける者、感涙する者もいた。


女たちに貨幣らしきトークンを手渡して雑草のように生い茂る建物の中に入っていく者も居れば、手渡たそうとしたトークンを弾かれる物もいた。


二人の若者は誰にも声をかける気には到底なれず、出来る事ならばではなく、を本能的に求めていた。


セイムは思わず鞄の中に大切にしまって、紐まで通しておいたシャズのクレジットがすられていないかを確かめて、ぎゅっと力を込めた。

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