裏組織ルーシージャック

「まぁ兎に角、そんな恰好じゃ目立ちすぎる。俺の見立てによればここは、お前らの思ってるよかよっぽど物騒なとこなんだよ。さ、こっちだ」


メイプルは、ジゼルに近づいて下から覗き込むように彼女の顔を見上げて両手で手を取って、街の中心から離れるように移動を促した。


「待ってくださいメイプルさん!」


セイムは今にもこの怪しい少年に連れ去られそうになるジゼルを慌てて捕まえた。


「ん?なんだよ」


「僕たちは・・・。とにかく、あなたと一緒にはいられません」


「安心しろって。俺は、だっての」


メイプルはそう言ってマスクの下で屈託のない笑顔をセイムに向けた。


彼は余計にドキリとした。


「そうじゃ無いんです・・・!とにかくジゼルさんを放してください・・・!」


「だからそんなカッコじゃあぶねぇってんだろおが・・・!あ。そだ」


「・・・ぅ、ううああ!!」


どさり。


「・・・ごめんなさい、セイム。平気ですか?」


地面は大変固く、それに強かに叩きつけられた尻は酷く痛んだが、これくらい、切羽場の労働に比べたらなんともないとセイムは思った。


「僕は、平気です、ジゼルさんは?」


「おかげさまで、なんともありませんでした」


「ほら、これ見ればちった信用してくれるかな?」


メイプルはぶかぶかでごわごわした厚手の上着の内ポケットをまさぐって、小さな金属プレートを取り出すと、未だに立ち上がろうともせずに全く持ってもたもたしている鈍間な二人にずいと差し出した。


「・・・これは」


「そうよ!こいつは、『ルーシージャックのエンブレム』だ。もちろんライセンスは本物だぜ!」


「じゃあ、メイプルさんは」


「ああ!俺は、ルーシージャック公認の私立探偵だ!」


ルーシージャックとは報酬次第でSWE内でのどのような情報をも調査する事の出来る諜報活動に特化した集団だ。


彼らの多くは謎に包まれていて組織の実体は存在しないのでは?と、まことしやかに囁かれている程である。

彼らの仲間に入りたければ方法は至極簡単だ。

中程度人の集まる集落の掲示板や酒屋のテーブルの裏、馬小屋の柱、どこでもいい、そこに目玉のマークをナイフで刻むのだ。

サインが届けば、その近くに彼らの仲間入りのための試験課題の書かれた手紙入りの封筒が隠される、刻んだはずの目玉のマークが跡形もなく消えていたらそれが試験開始の合図なのだ。


「・・・・セイムさん?ねぇ?セイム?」


「ぇ。ああ大丈夫です。でも本当に存在していたなんて」


セイムはすぐに、一体どんな依頼を受けてメイプルがこの地に馳せ参じたのかを聞こうとして、また、ほとんど同時にそれは彼にとってきっと迷惑なことだと気が付いて湧き上がる気持ちをぐっとこらえた。


その一方で、セイムのを知ってか知らでか、ジゼルは柔らかな様子でメイプルに尋ねる。


「それで、メイプルさんは、どのような用事でここへ来られたのですか?」


「悪いがそれは機密事項でね」


メイプルは得意になって鼻を鳴らした。


「さ、こっちだ。夜になってろくでなし連中が出てくる前にかっこだけでもごまかしとかねぇとな!お前らは目立ちすぎる」


メイプルはそう言うと今度は二人の手を後ろで取って、人気のない港町の回廊をずかずかと進撃した。



ガタガタガタガタガタガタガタ・・・・・・。


「あの。メイプルさん?」


複雑なルートを迷いなく進むメイプルに、ジゼルはずっと長い間気になっていたことをいよいよ声に出して尋ねる決心をした。


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ・・・・・・。


「なんだ?」


ジゼルは、やはり同じように少し困った顔をしているセイムとしばしお互いの顔を見あうと頷いて、続けた。


「先ほどからわたくしたちの後をずっと付いて来ているは、いったいなんですの?」


行動を共にし始めた時から、それはメイプルのすぐ傍にあって、セイムとジゼルの二人はてっきりそれはゴミ箱か何かの宅配ボックスか何かだと思い込んでいたのだ。


それは、メイプルが先陣を切って歩き出してからずっと一行に追従し続けていたが、彼がことごとく謎の物体を無視し、説明をしなかったため、メイプルと謎の物体双方に挟まれる形になった二人は短い間ではあったが混迷を極めたのだった。


ジゼルの質問に対してメイプルはにわかに得意げになって、それについての質問を待っていたかのように肩回りのシルエットを生き生きとさせた。


「へへ。お前らわかんないの?」


二人は立ち止まり頷いた。


「全く、物を知らない奴らだね。こいつはな、第2世代型の自動端末だよ。B級メイドタイプで、荷物持ちくらいにしかならないけどな」


メイプルは薄い金属板で出来たドーム型の頭部に肘をついて寄りかかり、こぶしで数回天板を叩いた。


中からは、いかにも安そうな、空洞の音がした。


セイムは複雑な気持ちになってそれ以上彼について聞かなかった。


「まぁ、初めて見ましたわ。メイプルさんの頼れる相棒というわけですね?」


「ん?まぁな!」


セイムの気持ちとは裏腹にジゼルは嬉しそうにメイプルに訪ねて、同意を求める目配せをしたので、セイムも不本意ながら呼吸を合わせた。


「その方の名前は何と言うんですか?」


「名前?うぅん・・・。『ロドリゲス』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る