アオハルメ
初めに見えたのは隆起する大地に隠された煙突の先端からもくもくと立ち上るおびただしい量の煙だった。
やがて、メイト・メイガ・アウトジョズ駅の異様なほどにコンパクトにまとめられた街全体が海面と地面からせりあがる様に二人の前に現れた。
膨れ上がった球状の形をした街の外周は中心から延びている溶解炉が所狭しとひしめき合っていて、そこには大勢の人影も見えた。
二人は思わず立ち上がって正面の透明パネルから街の姿を眺めた。
老人は、線路の続く限り遠慮なく街の中までクローラーを進め、ちょうど駅のホームのようになっている人気のない場所で二人を下ろした。
ジゼルは金属粉臭い空気の中、しなやかに伸びをして、それから老人にお礼を言った。
「送っていただいてありがとうございました。えっと・・・」
「ダンテだ」
「ダンテさん、どうもありがとう。えっとそちらの方は・・・」
「デイヴィッド」
「どうもありがとうデイヴィットさん」
セイムは忘れ物が無いか車内をもう一度くまなく点検し、古い物だがシンプルで堅実に造られたクローラーに感心した。
彼はクローラーから降りると前の方に行きジゼルと同じようにお礼を言った。
セイムがお礼を言うのを見届けるとジゼルは勇気を出したように一歩踏み出して、クローラーの窓に両手の指をかけて言った。
「ダンテさん、わたくし達この街に来たのは初めてなのです。もし、宜しければなのですが、少しでいいんです、一緒に街を周っていただけませんか?」
ダンテ老人は少し考え込んでギアをバックに入れた。
「それは出来ないよジゼル。こんなところにこいつを停めて置いたらすぐに『カウチ』にやられちまう」
「カウチ?」
「あいつだよ」
老人は空から覆いかぶさるように建設された街の壁に大きく空いた丸い穴を顎で指した。
向こう側から微かに磯の匂いと、僅かな光と、波の音が漏れていて、本来この場にもっとよく届くはずのそれらを塞いでいたのは、小屋程の大きさがある巨大な茶色い生物だった。
このカウチと呼ばれる生物は、繁殖期になると複数のメスと一匹のオスによるハーレムを形成し、ハーレムのメスを巡ってオス同士がお互いの体に覆いかぶさり合うようにぶつけ合い、争う習性がある。
特に戦いの経験の少ない若いオスは、手頃な大きさの物で予行練習を行うのだという。
「あいつらは、臆病だから。よほどのことが無い限り自分から来ることは無いが。人がいなくなればすぐにこんなポンコツはぺしゃんこさ。ほら、あすこを見て見ろ」
ダンテが指さす先には、歴戦の蒸気機関車が壁に押し付けられ、もたれかかって、地面に半分埋まる様に打ち捨てられていた。
度重なるカウチたちの練習にさらされた機関車の表面は、錆一つ無く滑らかに磨かれ、不自然な光沢を放っていた。
「時間厳守だぞ。遅刻したら歩いて帰って来いよ」
「ふふ、それも、いいかもしれませんわね」
ジゼルは心底そう望んでいるかのように、嬉しそうににこりと笑った。
「ふん・・・!アオハルめ」
「アオハルメ?」
ブオオオオオオオオオオオ!!
ブオオオオオオオオオオオン!!
「俺は行くぜ」
「はい、どうかお気をつけて、シャズさんとリナさんにもよろしくお伝えくださいまし」
「ダンテさんデヴィッドさん、ありがとうございました」
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