告白

セイムは納得いかなかったが、この地に訪れた理由も無ければ、留まる理由もなく、かつては、ジゼルと共にここを離れてしまう事を切望していた時期もあったため彼は、自らに内在する意識にただただ困惑した。


このとき彼をこの地に引き留めてようとしていたのは、他でもなく、シャズと言う人間に対しての好意だったのだ。と、気付かされてしまったからである。


セイムがいつも外側に向けて発生させるエネルギーがこの時に限っては内側に向けられていたため彼は、大変苦しい思いをして頭がぐらぐらと揺らされているような感じがした。


それから二人は普段のようになって、一切言葉を交わさなかった。


屋敷はわずか半日の内に大半の掃除が済んで、前よりもむしろ綺麗になったような印象を与えさえもした。


しかし、めちゃくちゃになってしまった家具や食器の類と、4つに分かれてしまった入り口の大扉は、所在なく壁際に立てかけられて放置されたままだった。


女たちはというと大変誇らしい態度で、働きもせずにあまつさえ手ぶらでのこのこ家に帰ってきた二人を優越感と呆れ半分半分で見下ろすと快く歓迎した。



屋敷に着くなりシャズはあぁと喉を鳴らしてリナを呼んだ。


「リナ。少しいいか?」


「なあに?」


「お前たち、しばらく出てろ。」


「え?ええ。わかりましたわ」


シャズが振り返りセイムを見たので、彼もそれに答えてゆっくりとうなずいてジゼルを連れて外に出た。



 ジゼルは入り口の階段からひょいと飛び降りて着地と同時に体中の関節をしならせてうんと伸びをした。


「いいお天気!行きましょセイムさん」


「はい」


昼過ぎの太陽に焼かれたジゼルの肌は、日々の家事労働でほのかに焼けてそれでも白く透き通り、叉、眩しかった。


今日と言う日はきっと彼女の為にあるのかもしれない。


ジゼルは足早に屋敷の裏手に回り込むと、中庭に流れる小川にそって歩いて、セイムもそれに続いた。


彼は山からの湧き水とポンプでくみ上げた水が一緒になる桝状ますじょうの貯水槽に着いた辺りで、先ほどのぼんやりとした推測がとたんに現実味を帯びたような気がしていた。


なぜならば、あたりを覆いつくしていた『ブルーベル』の花がジゼルを出迎えるように一斉に花開いて、荒野を吹きすさぶ風に甘い芳香を漂わせ始めたのだった。


先を歩いていたジゼルはたいそう驚いて、セイムのほうを振り向くと口を僅かに尖らせた。


「わたくしのために咲いてくださったのかしら?」


自分で言っておきながら酷く恥ずかしそうな様子のジゼルの白い服は涼し気で、眩しく透き通っていた。

セイムはそうしれません。と、言ったが。


彼は内心、本気でそう思っていた。

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