再会の約束
泥の建築物の中はひんやりと涼しく適度に乾燥して、奥からは機械的な騒音とタバコの煙の残り香がほんのりと漂って来ていた。
セイムは壁に埋め込まれた照明の薄明かりを頼りに、丸く削り出された階段を一歩ずつ降りて行った。
しばらく階段を降りていくと曲がりくねった先に広い空間が現れ、暖かなその空間には人の気配もあった。
「シャズさん」
鵜の一番、彼はシャズの名を呼んだ。
「セイムか、よくここがわかったな」
「はい、その人たちは」
地中に広くくりぬかれた空間は向こう側の壁が丸々取り除かれ、渓谷のどこかの岩肌が見えていた。
谷へ吹き込む風がひゅうひゅう音を立てていて、大穴のすぐそばにはかつてセイムとジゼルを追い回した旧式のクローラーが泊められていた。
そして、ところどころ赤く錆びた作業台で工作をしているシャズのそばで作業している二人の人物は、まぎれもなくあの時の二人組だった。
セイムはあの時の事を謝罪しようと思い、すぐに声を上げた。
「あの・・!」
「お前さん、セイムっちゅうんだろ?あんときゃ、わるかったな」
ひげ面で砂まみれの男がそういうと、もう一人も遠慮がちにセイムを見てうなずいた。
「どうも、蝶がちらついて、頭を掻きまぜやがるんだ。子供ってやつは残酷だしよ。おっかねぇもんだ。わかってくれんだろ?こいつも、あの日からずっと鳥を追って、お前が悪いやつじゃなかったんじゃないかって五月蠅くてね。」
髭の老人は肩に乗せた毛糸の人形の顎を人差し指でさすってそう言った。
「僕たちこそ、急にグライダーで降りてきたりして脅かしてしまってすみませんでした」
「あれは、パルス式か?」
「ブースター併用型の圧縮噴射エンジンだそうです」
「ふむ」
髭の老人は、くるりと体の向きを変えシャズの方を見た。
「シャズ。お前さんいい助手を拾ったな。だがよ、いけねぇぞ?おまえさんの馬鹿に付き合わせるなんざ。おいセイム、まぁやれよ」
髭の老人は、服の腕部の専用に拵えたホルダーに刺さっていた焦げ茶色の棒を咥えてセイムにも一本差し出した。
「人またたびだ。効くぜ?」
セイムは言われるままに差し出された人またたびを一本受け取った。
その間に髭の老人は、溶接用のトーチを器用に使って点火し、空気と混ぜて吸い込んだ。
「・・・ぁあ。灰が水に溶けるが如く」
髭の老人は深く深く椅子に座り込みながら開いた口の抜けた歯の隙間から煙
を吐き出した。
セイムは老人の半分白目をむいたその様子のどこかから、決してぬぐい切れない
セイムは手渡された人またたびの表面の臭いを何度か嗅いで持ち直すと言った。
「やめておきます」
「・・・そうか」
髭の老人は目の焦点が狂ったまま、セイムの手の物を取ろうとした。
しかし、その手は、何度も何度も空を切って、なおも全く同じ軌道を描いて一向に人またたびに届く気配が無かったので、彼は老人に一歩近づき元あった腕部のホルダーに慎重に人またたびを差し込んだ。
見守っていたわけでは決してない、作業の一通りを終えたシャズは立ち上がる。
「セイム。そろそろ行くぞ。ジジイ、世話んなったな」
「おおぉ、近い内にまた来いよ。絶対な。友よ」
「友よ」
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