星を穿つもの

次の日の朝、セイムは、自力で起きることが出来なかった。


同室のジゼルは、昨夜セイムが眠りながらに酷く興奮して、うなされていたのを知っていたので、いつも起きる時間に一向に起きようとしない彼をそのまま寝かしておくことにした。


それでも、朝日が昇って来て、この部屋の唯一の窓の下にはセイムのベッドがあって、そこからは毎朝美しいムーンシャイン鉱山が一望出来て、その光景を眺める事は彼女の大のお気に入りだったので、彼女はいつものように部屋の反対側から朝日が昇るであろう少し前にセイムのベッドに片膝をついて横向きに寝ているセイムの寝顔をこっそりと覗き込んだ。


起きて居る時は、いつも厳格で、自らの真面目さに苦しめられているセイムであっても、寝顔ばかりは年相応にあどけなくなり、彼女にとってそれはとても可愛らしく感じるものだった。


ジゼルは普段セイムの柔らかな髪によって隠蔽されている耳を咥えてしまいたくなる欲求をそっと抑えて、酷く悲しくなり、それから、同じくらい優しい気持ちになって耳元でささやいた。


「早く起きなければ、あなたに接吻してしまいますよ?」


そして、すぐに恥ずかしくなって、膝をついている方の足を忙しなくぶんぶん振った。



 セイムが目覚めたのは、朝日が上がってからしばらくたってからの事だった。


彼はまぶたに差し込む太陽の光と心臓が作り出す強烈な血液の奔流によってたたき起こされ無意識のうちに小走りになって揚水機へと向かった。


その時、彼は多変焦っていて、あの騒音が聞こえていないという事はつまり、揚水機が動いていないという事を、その場に到着してからようやく気が付いたのだった。


ずいぶん遅くなってしまったがいつも通りに掃除をし、機械内部の気圧が高まる頃には朝と昼の中頃辺りになってしまっていた。


その間、シャズは現れず無かった。


いつもの水浴びの最中に女たちが一杯の衣服や布などをもって洗濯にやってきて、セイムは慌ててしゃがみ込んだ。


「いいのにセイムくん。恥ずかしがらなくても、可愛いんだから。ね?」


「え?ええ」


太陽の光にさらされる彼女たちの肌は透き通り、活き活きとして、可憐で、今までと違い肩回りや胸の周りの露出が若干増えたり、生地が薄くなった装いがその事を一層引き立てていた。


ジゼルがもじもじと恥ずかしそうにしているものだから、舐めるようなセイムの視線に彼女が気付いてしまった気がして、彼は二人に背を向けて急いで服を着た。


渓谷中腹のたたき(土と石灰と水を混ぜて固めた物)で出来た階段に差し掛かったころ、やはり、シャズはここにもいないのだとセイムは確信していた。


シャズはいつも穴に潜る前に必ずタバコを2~3本ふかすので、この場所に差し掛かると毎日必ずそのタバコの芳香が漂って来ていたのだ。


それが、今日に限ってしてこない。


それでも、セイムは最近めっきり光量が減ったヒカリシロコバシの篭に途中取ってきた草の種や木の実を沢山撒いて、元気についばむ姿に思わず微笑んで、穴に潜り、一人鶴嘴つるはしを振り下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る