クソジジイボイラー
「どうしたんだ?」
聞きつけたのでは無く、ずっとその場に居なければ説明のつかない神出鬼没さを発揮したのは今さっきまでホールで大いびきをかいて寝ていたシャズだった。
セイムは酷く慌てて狼狽えた。
「シャズさん!あの、そこに!大きな動物が!」
「シーシーシィ・・・」
シャズは唇を尖らせてそこに人差し指を当てて動物にそっと歩み寄るとそのまま抱き上げた。
『カウー!カゥー!カッ!カッ!カッ』
川の中から姿を現したずんぐりとした動物の瞳はガラス玉のようにキラキラして綺麗で、むき出しになった足の爪は赤みがかって見るからに硬質で摩耗していた。
「『シーポン』だ」
『タウー!!』
「シーポン・・・?」
抱き上げられたシーポンは、丸い体を捻らせて逃げようと試みたが元々不器用な動物なのか、物の数回ためしてそれが無駄な努力と知ると力を抜いた。
「お前が来るまでは、あの納屋がこいつの住処だったんだ。」
「え・・・。そんな。でも僕は」
「お前、まさか自分が世界で一番弱いと思ってるいわけじゃないだろうな?」
『タウー・・・!』
セイムは思わず言葉を失った。
「こいつは腹が減ると『レプトンセファルス』を食うためにこの川に来るんだ」
「レプトンセファルス?」
「水の中を見て見ろ」
セイムはもう一度かがんで水中に目を凝らした。
すると、透明な糸のように細長い物が川の流れに逆らって泳いでいるのを見つけた。
他に、それらしい生物は見当たらない。
「この細長い魚のような生き物でしょうか?」
『タウー!タウ!』
捕らわれのシーポンが貴重な獲物の所有権を主張するように暴れるとシャズは元居た場所にシーポンを戻した。
シーポンは溺れたように手足をばたつかせて再び一生懸命になってレプトンセファルスを探し始めた。
「来いセイム」
セイムは無言のままシャズに従う事にした。
屋敷の中庭を抜けて、土色の荒野を月に向かって少し進んだ場所にそれはあった。
「こいつは蒸気式の揚水ポンプだ」
昼間、地上で常に聞こえていた騒音の正体はこの古く巨大な蒸気機関の騒音だったのだ。
少ない光りで照らされるポンプのビーム(上部のシーソー部)は鈍く輝いて、内に秘めた老練さと未だ衰えぬ膂力を見る者に感じさせた。
「こいつは、何十年も前に作られたクソジジイだ。手間はかかるが信頼できる。セイム、お前明日から穴に来る前にこいつのケツに火を入れろ」
セイムはぎゅっと胸が締め付けられるのを感じた。そして、その恐怖から逃げるために声を上げた。
「そんな!無理ですよ急に言われても!」
シャズはボイラー室の石積に手をかけて軽くうなずいてガラガラと喉を鳴らして言った。
「教えてやる」
先ずは、こっちの水路の先にある水門を開けるんだ。おおもとの水門は火を落とすまで開けておいて構わない。次は二つ目の水門を・・・。
燃料は、『圧縮オイルカーボン』・・・、『グレムファイト』・・・『固化ピッチ』・・・それから・・・
このタンクにはメモリものぞき穴もついてない。棒で叩いて確かめろ、バルブは、閉めすぎるな、後で苦労したくないならな。あとはここを・・・。
炉に火をつけたら、ボイラーの圧力に気をつけろ。
ここのオレンジのラインだ、こいつを越えたら外のバルブを開けろ。
一日の燃料は、秤に乗せてある重りと同じだけ必要になる。
裏に積んである蔵から持ってこい、おおすぎても、少なすぎても、ダメだ。
火を落としたら蒸気を抜いて次の日の朝に掃除しろ。
「はい」
セイムは、さっそく老練のボイラーの掃除に取り掛かった。
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