HAVEN

「HYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!」


ボオオオオオオオオオオオオ!!!!!!


「ジゼルさん!そっちはダメです!」


セイムは正午の太陽を浴びた熱い砂を蹴り上げて、小高い山の方へと逃げ出そうとしているジゼルを呼び止めた。


ジゼルが目指した先には乾燥した土地にありながら、奇妙な事に尚も膨らむ萱葺き屋根の廃墟があったが、その目立つ建物のおかげでその先がすぐに行き止まりになっていることを彼は知っていたのだった。


「で・・・では!?どうしましょう!?」


「こっちです!」


セイムはジゼルの手を取って必死の思いで砂を蹴り体を弾かせた。


背後からは旧式の『ランドクローラー』を原始的で尚且つ暴力的な考えを極めた手法を凝らし改造を施したものが、巻き起こす黄色い砂煙を黒煙と噴き出る真っ赤な炎で塗りながら唸りを上げてこちらに向かってきている。


その姿に理念や大儀などは一切感じられず、一足早く押し寄せる根源的な恐怖が無意識に、普段はかく事の無い体の至る所から汗をふき出させていた。


「でもっ!セイムさん!この先は、平らでまっすぐで!!すぐに追いつかれてしまうんじゃ・・・!ないかしら・・?!」


ジゼルは一度躓きそうになり、それから体制を整えると釈迦のようにふんわりと握った手をさっさと振ってあっという間にセイムの隣に着けた。


セイムは自らの体力の限界と、このまま順当にいけば先に犠牲になる事に対する安堵がほぼ同時に訪れて、縺れたまま4つ足で駆けるように目の前の緩やかな丘を登った。


この先が人がすっぽりと入れるほどの深さの長い長いわだち(くぼみ)になっていることも彼は知っていた。


「その先は急な下り坂になっています!!ジゼルさん伏せて!」


「はいっ!」


車体の調和を無視して改造されたランドクローラーが安定性に酷くかけた代物であることは、おおよそ彼でなくとも気が付くほど明白だった。


3秒ほどして目標を失ったランドクローラーは刹那、空の冒険へと出発したかと思えばすぐさま砂の大地に叩きつけられた。


その時の衝撃で荷台に乗っていた搭乗者が弾かれ、取れた屋根諸共砂の上を転がった。


屋根が破壊され白日のもとに晒された運転席の男はに似つかわしくない程に汚れて、ゴーグルと汚い帽子から溢れる体毛は縮れて所々絡まった白髪には灰色の毛が混じっていた。


男はセイムとジゼルをじっと見てよだれを垂らした。


「お前らぁ・・・!ううううううううう。そっちにいくなあああああああああああああ!!!!!!!」


ボオオオオオオオオオオンン!!!!!!!!!!

ボオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!


「セイムさん!わたくしの後ろへ!」

「危険です!逃げましょう!!!」


「HYYYYYYYYYYYYYYYHAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!」


それはクローラーの高速循環する履帯が砂をけ飛ばすルーティンを終えるまでの一瞬の間だった。


ベンッ!!


二人は丘の頂に手がかかる場所で影の中にいた。


その影は、鳥にしてはあまりにも大きく、しなやかで重々しかった。


影は一度大きく羽ばたくと、鳥の卵のような小さな白い球体を無数に辺り一帯にばらまいた。


その数約200。


「上れ」


「え・・・?」


「とっとと上れ。クソガキ共」


二人はこの正体不明の言葉に従った。


干からびた川のような巨大な轍の底では卵や謎の鳥人間に一切怯む様子も無く、クローラーに乗った男が目を血走らせて肩を限界まで緊張させハンドルにしがみついていた。


男は再び悲鳴のような声を上げた。


「そっちにいくなあああああああああああああ!!!!!!!!!」


履帯を空転させていたクローラーの急発進と同時にばらまかれた白い球が弾けて轍はたちまち騒音と閃光と煙に飲み込まれた。


「吸うな。スプールと、ギアだ」


すぐに薄まりつつある轍の煙を睨み付けて男が呟いた。


「スプールと!ギアだ!!」


『・・・はい!』


一体何のことなのかわからない。


しかしジゼルも反射的に返事をする。


吐き捨てるようにそう言った男は、煙が消えるとすぐに轍の底へと滑り降りた。


二人もそれに続いた。


轍の底では投げ出されたランドクローラーの運転手が白目をむいて仰向けに倒れていた。


男は、運転手を足で転がして、取り出したポケットナイフで容易く駆動部を分解した。

それから、両手いっぱいに持ったを判断が追い着く前に二人の若者に押し付けすぐに走り出した。


「早く来い」


「待ってください・・・・あなたは」


「後だ!!クソ」


この時セイムは、目の前の粗暴な男がヤナギの言った人物だ。と、ほとんど確信を持っていた。



セイムたちは何とかはぐれずに男の後を追った。



特にセイムは両手に抱えた荷物のせいで前などほとんど見えないので、並走しているジゼルを追ったと言った方が正しかったかもしれない。


男は小さな溝だった物が高い壁に変わるまで坂を下って、それから底が見えない谷にに架けられた橋をいくつもわたり、やがて、大きな屋敷へとたどり着いた。


その屋敷は地上で尚且つ鉱山全体を一望でき、最も朝日の当たるであろう高い位置に建てられていた。


見る位置を変える事でこの鉱山はその全貌をより寂しく惨めな印象にして、谷を隔てた場所にある家々も、ここからは見えない所に張り付いている家々も、当の昔に廃墟になっているという事に、二人は勘付いていた。


そんな、ムーンシャイン鉱山にあって唯一、この屋敷の周りに散らかる植物や所々に垣間見える生活の痕跡や雨風で削り取られた壁のワンポイントの赤レンガや音も無く流れる小川などがという事を物語っていた。


「荷物は、そこの納屋に入れておけ」


『はい』


二人は言われた通りにボロボロの穴だらけの納屋に向かった。


幾つかの飛び石の先にその納屋はあった。


セイムが先に中に入り2段になった棚の開いているところに荷物を置くとすぐに入り口でジゼルの荷物を受け取った。


ジゼルは振り返り、腕を組んだままずっと睨みを利かせている男の顔をしっかりと見た。


男の姿は極力与える情報を搾っているようで、露出している僅かな部分から。


おおよそ、中年である。


と言う事くらいしか伺い知ることが出来ない。


「失礼ですが・・・。私たちは」


「黙れ、メスガキ。お前はこっちだ」


「え、ええ」


男の突然の非礼にセイムは激怒した。


「待ってください!どうしてそんな失礼な事を言えるんですか!?さっきからずっとあんまりじゃ無いですか?!僕達はあなたの名前も知らないんですよ!」


セイムはジゼルを庇うように男との間に割って入って激しく抗議した。


男はセイムを光の無いどこまでも暗い瞳で睨み付けて、彼に強烈な蹴りをお見舞いした。


「喚くな」



セイムはボロボロ納屋の中に足で無理やり押し込まれるような形になり背中を強打した。


そしてそれと同時に、穴だらけの納屋の見た目に反した丈夫さを証明した。


男は入り口の光を遮って納屋に侵入し、未だに反抗的な様子のセイムを無言で見下した。


「お願い。乱暴はやめて!」


凛として、何処か哀しみを感じさせるジゼルの要求むなしく。


セイムの横面に、砂だらけの靴底がぶつけられた。

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