第163話「追跡者」
「ぐっ!」
「次は逆の足を射抜く。この乱戦の
「…これでこの辺りに人の気配はなくなった。少しくらい
お珠とは
「わかったわ。ところであなたいったい何者なの?」
「何者とは?」
「そのままの意味よ。あなた少しおかしいわよ。会った時は礼儀正しいお武家様かと思ったのに、戦う時はまるで得体の知れない
「お前な、その物云いは…」
「構わん。俺はそれだけの事をしているのだからな」
「その言葉遣いも妙なのよ。なんかわざと無骨な言葉を選んでる気がする。私としてはさっきの丁寧な言葉遣いの方があなたに合っていると思うわ」
お珠の指摘は正しかった。
今の慶一郎は所作も言葉遣いもジンとして振る舞っている。そしてそれは慶一郎にとってそれは自分自身の言葉遣いや態度ではない。普段が自然と云うならばジンとしての振る舞いは不自然と云ってもいい。
お珠は直感的にそれを見抜いていた。勿論、その直感を後押しする要因として喜助を助けた際の慶一郎を見ている事が影響しているが、この見抜きは
「助言として受け取っておく。…
「…わかった。お前も油断するなよ」
喜助は慶一郎がこの場を離れるという事の意味を一瞬で悟った。
そして、慶一郎は喜助の弓矢を自らの刀に持ち替えて今来た道を引き返していった。
「…なんでよ?」
「あ?」
「なんであの人は
「ああそれか。たぶん誰かが俺達をつけてたんだろ」
「たぶんって」
「お前もあいつの
「
「矢が入ってるやつだ」
「ああ、これね」
喜助はお珠と共に自身の
一方、喜助達の居る場所から二十数歩離れた所まで歩いた慶一郎はそこで立ち止まって口を開いた。
「いるのはわかっている!姿を見せろ!」
慶一郎がそう云うと、白煙の中から二人の男が現れた。
「キキキ、まさか」
「気づかれていたとは。ククク、これは」
「楽しめそうだ」
「同じ顔に同じ声で二人交互に喋るとは妙な真似をするな。お前らは奇術師の
現れたのは二人共に刀を逆手に持った双子だった。
一人は右手に、もう一人は左手に刀を持っている以外に二人に
「我等は
「我等は共に武蔵流の五代目を襲名している」
(二身一体の戦法か。これ迄の
「
(来た!)
慶一郎が双子へ立ち去る様に云っている最中であった。
立っていた双子の男達はまるで折り畳まれるかの様に頭から地面へ向けて押し潰され、一瞬にしてものを云わぬ
(凄まじいな…生きている人間を頭から押し潰すなど
「…お前は何者だ?」
「………」
双子がいた場には黒い男が立っていた。
慶一郎を見据えるその瞳は宝石の様に青かった。
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