第162話「武」
「…何故止めた?」
「お前こそ何故だ?」
「俺は
兵庫助が云った。
儀間は斬り掛かる兵庫助を前に微動だにしなかった。そして、兵庫助は斬る刹那にそれを感じて咄嗟に手にした刀を手放し、空手で一撃を放った。
「それは悪いことをした。だが、何故と訊かれても答えられんぞ」
儀間が云った。
儀間は自分自身が動かなかった明確な理由がわからなかった。
「なに?」
「そうだな…強いて云うならお前の武の可能性を途絶えさせたくなかった。俺はお前を殺したくなかった」
「ふざけるな!!」
「聞け
「それはお前の都合だろう!俺はやっと俺よりも強い相手に出逢えたんだ!そんな奴を相手に
「強き者に負けて死ぬのが
「………」
「それにお前は今、この負けに屈辱を感じている。お前の感じているその想いは俺とは違う。俺は生涯初の負けを味わった時に悔しさよりも清々しさを感じたが故に底が知れた。だがお前は負けを認めていながら尚も屈辱を抱いている。その
兵庫助と儀間、両者の死合の結末は勝者なし。即ち、
だが、その結末に兵庫助の
死を覚悟して放った生涯最高の一撃も通用しないと悟り、一撃を儀間へと放った刹那の中で自らの死を意識しながらもその結果は儀間が動かなかった故に
この結果は兵庫助にとって
「……最強を自負していた男が負けて生き残るなんてな…
兵庫助はその場で
「…武とは
儀間は兵庫助の肩を掴み、諭す様に云った。
そして…
「ぐうっ!!」
「立て
儀間は兵庫助を殴り、次の瞬間に周囲へと迫っていた者達を斬り伏せて白煙の中に消えた。
「…ちっ!勝手な事を………聞け
兵庫助は消えた儀間へ向けて叫び、刀を拾うと儀間が消えた方向とは異なる方向へと向かった。
圧倒的強者との邂逅によって兵庫助がそれ迄ずっと抱いていた空虚が埋まり、兵庫助の歪んだ
幼少時より求め続けた武の極致だけを求める真武の探究者
勝負は時として人を大きく変化させる。
たった一度の勝ちが
たった一度の負けが
ただ一度の勝負が人の人生を左右するほどの変化を
そして、この時の負けは兵庫助を目的もなく
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