第148話「五代目吉岡憲法」
本性は
武蔵の生涯にはその真偽がはっきりしない部分も多くあるにも拘わらず、現代に於いての武蔵は武芸者として英雄にも似た扱いをされており、一般的には武蔵こそが天下無双の
だが、武蔵の武を語るには必要不可欠な出来事である幾つかの決闘に於いて、その伝記者によって様々な喰い違いがある。
舟島の
また、京都の吉岡一門の関係者と推測される人物と争った際には、一対一の死合に勝利した武蔵に対して百人近くの吉岡の門下生による仇討ちが発生し、それを武蔵がたった一人で返り討ちにしたという凄まじい伝説があるが、それに関する客観的且つ正確な史料は一切なく、百対一での返り討ちはあくまでも武蔵側の関係者による伝記を基にした説である。
何れにしても、武蔵が行ったとされる数々の決闘及び伝説については客観的な史料があまりにも少ない為、現代では史実と認識されている出来事ですらそれが実際に起きたか否か不明瞭なのである。
だが、そんな武蔵について一つだけ揺るがない事実がある。
それは武蔵流の兵法書、『五輪の書』の存在である。
武蔵が晩年になって書き記したとされる『五輪の書』の内容はあまりにも優れていた。書き記した書が優れていた事によりその著者である武蔵は剣術の達人であり、真偽の定まらない決闘も史実であるという見解が為された。
そして、武蔵は伝説の剣豪となった…
「
「そ、それは……」
図星であった。
「やはりな。噂を鵜呑みすれば
「弱いはずがない。ジン殿の剣は柳生一と謳われるあなたにも勝るとも劣らない
「ジン殿は万が一にも殺されることはならんということか…そういう事ならば本人に会ってから決めて貰おう」
「本人だと?」
「五代目と直接話した上で手を貸すに相応しい人物であると感じたならば手を貸し、五代目が捨て置く程度の人物ならば身を引く。これでどうだ?見たところ、
「それは……」
「くはは。やはり気になっている様だな。理由は訊かないが、気になるならば五代目に会ってみるといい。無論、会ったからと云って俺も五代目もジン殿に強要はしない。だから
これ迄の話を聞いた限りでは当時の吉岡一門の門下生の一部が生き残っている可能性は高く、生き残った者達だけでも豊臣方の兵と出来るか否か、その結果は五代目の意見によって大きく左右される。それを考慮した場合、この件で五代目憲法に会う事は後の戦に影響する重大な出来事となり得る。
だが、五代目憲法と会った事で
殺されるかも知れない…
これ迄幾度となく慶一郎の強さを目の当たりにしてきた早雪だが、それでも武蔵という男の名が早雪を不安にさせ、慶一郎の人柄がその不安を強くさせた。
現時点ではまだ慶一郎が武蔵討伐に参加すると決まったわけではないが、早雪の知る限りの慶一郎は相手の人柄に惹かれた場合に協力を惜しまない。即ち、五代目憲法が名門の跡を継ぐに
相手が強大であろうと多勢に無勢であろうと退くことはない。
それが、早雪の知る立花慶一郎という人物なのである。
慶一郎の武蔵討伐への参戦、吉岡一門の豊臣への助力、様々な可能性と
そして、早雪は
「…わかった。会わせてくれ。だがこれだけは伝えておく。云われた通り私は強要はしないが、云いたいことは云う」
「くはは。それは当然だな。お前さん達がどんな間柄かは知らぬが
「ない」
(あるわけがない。
「なら決まりだ。呼んでくるから二人とも暫し待っててくれ」
「ここに来ているのか?」
「ああ。
兵庫助は道場を出て離れへ向かうと直ぐに戻ってきた。
道場へと近付いてくる豪快な足音と共に五代目吉岡憲法の声が聴こえてきたその時、慶一郎と早雪は吉岡憲法の名を継いだ人物が誰なのかを知った。二人はその人物の声を知っていた。
「むおうっ!!?
「ぐ!……五代目、耳が痛い故傍で大声を出さんで貰いたい。お前さんは
「むう…それはすまん。だが、この人物がなぜここにい…」
「
慶一郎は状況を呑み込めない五代目吉岡憲法の言葉を遮って云った。あくまでもジンとして振る舞いながら早雪へ訊いた。
「こうなってはもはや是も非もないでしょう。手を貸すのは必定です」
「おいおい、お前さん達。二人揃っては五代目と顔見知りか?」
「ああ。まさか五代目
「……驚いたのは我輩のほうじゃジン。この
「さて、どうかな?何れにしても俺は友としてあなたに手を貸す。吉岡流の五代目云々ではなく相手があなただからだ」
「
「許すも許さぬもない。あなたは我々の
「ああ。
五代目吉岡憲法は
義太夫に対して慶一郎は強い言葉で意思を示し、凛然と協力を宣言した。
慶一郎の言葉を受けた
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