第135話「琉球」
「その状態で話せるのか?」
野次馬達が引き上げた後で約束の金を受け取った慶一郎は象山の話を聞くために三人が寝泊まりしている宿へ
「ジンよ、お前は酒は呑めるか?」
「ああ」
「そうか。これは俺達の
慶一郎は
儀間達だけではない。様々な人と出逢って重ねた経験によって慶一郎は酒に血の味を感じなくなっていた。
「ジン、この瞬間を忘れるな。我ら琉球闘士は格下には酒を
「
「うむ。多少聞き苦しいかも知れぬが、ワシの知る限りを聞かせよう。ジン、この話はヌシにも関わるかも知れん。いや、あの業を扱える者を父として持つヌシには確実に関係している。ヌシは事実を知る覚悟はあるか?」
「無論だ。その為にここへ来た」
慶一郎は真っ直ぐな眼で象山を視た。
その眼差しに
「よい眼だ。では聞かせよう。この話はワシがまだ若輩者だった頃の話だ…」
象山は砕けている顎を庇う様に喉で声を出して語り始めた。
約五十年前、琉球王国───
「
二尺程の髭を蓄えた長髪の老夫が床を踏み鳴らしながら叫んでいた。髪も髭も真っ白なその老夫の肉体は衣服を着ていてもわかる程に分厚い筋肉に包まれており、その声は生気に満ち溢れていて老夫というよりは若い男の様であった。
「…
そう云いながら一人の男が屋根の上から飛び降りてきた。一糸纏わぬ姿で白髪の男を諭した男の肉体は見事に日焼けしており、この日も屋根の上で一物にのみ布切れを掛けて日光浴をしていたところであった。
白髪の男はこの男にとっての士父、即ち闘士としての師でありながら人として父と慕う存在であり、二人は弟子と師匠にして、子と父の様な関係である。
「
「王になれぬは我士の宿命。王族でありながら尚の姓を名乗れんのも仕方がないこと。生まれに未練はない。大切なのはどう生まれるかではなくどう生きるか。そう教えてくれたのは士父であろう?」
「うむ。その言葉の真偽、
我士、奴士、これらは闘士が用いる独特の言葉である。
我士は
奴士という言葉の
そして、
これは、王の直系の孫にも適用されるものであり、当然のことながら王の甥などの姓も尚ではなく向となる。
「とは云え、天とは時に勿体ない事をする。奴士には
王器とは、文字通り王の器である。
向山の士父は師弟の
「士父よ、そんな事を云って誰かに聞かれたら内乱の
「…
「
「む!…琉球にいる限りは向の姓を捨てる事は出来ぬが、通名としてならばそれもよいだろう。武の象徴にして武の
象山…本来の姓は尚、名は山。
向山は琉球の王族として生を
象山というその名は、王族の中でも末端となる家系に位置し、どれ程に優れていても単なる王族の一人として人生を終える宿命を背負った男が敢えて選択した武の道、闘士としての
この二年後、象山は
琉球闘士に於いて、烈士と称されたのは象山とその士父の二人のみである。
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