第120話「運命の夜明け」
「ここまで来れば後はもう一本道だから迷わずに外へ行けるだろう。…ところで
運命の対峙を終え、大坂城の地下より外部へと繋がる隠し通路から城外へと出る直前の事だった。
案内を終えた
「確かに理由と云えるものはありました。ですがそれももう無くなりました」
「無くなった?」
「はい。もし私が
男上位の武家社会という中で女が頂点に立つ事の難しさを鑑みた場合、例え喜助であってもその秘密を明かす事は出来なかった。
「…精一杯やってみるよ。それなら尚更明かした方がいいんじゃないか?」
「いえ、理由が無くなったとしても敢えて明かす必要もない事ですので」
「ふうん…それならまあいいか」
(
「それにしてもすげえな…こんな入り組んだ地下通路が巡らされているとは、案内がなければ何日
「
「ははは、気にすることはない。僕の父上はあの
「
「そうそう、それだよ
「母がよく云っていました。昔、大坂の城には禿げた鼠が棲んでいて、孤独な闇を
「へえ、お前の母ちゃん風流な事云うな」
「風流?今のが風流と云うのですか?ふふ、相変わらず
喜助の感性に慶一郎が笑みを溢した。
その笑顔に喜助と秀頼も笑顔を返した。
「…禿鼠に比べれば猿なんて可愛いもの。父上もきっと
「そうか?ま、本人がいねえんだから許すも許さねえもねえけど、息子のお前がそう云うならそうなんだろうな。それよりも色々やっちまったからお前の
「…二人共、此度の一件は料理屋を
「河豚とは魅力的だ。ありゃあうめえなんてもんじゃなかった。だが、一先ずは京都に行かねえとなんねえんだ。知り合いと四日後に京都で落ち合う約束だからな。行かなきゃアンタよりももっとデケエ
喜助は慶一郎に今後の予定について答える様に促した。
その喜助の言葉に対し、慶一郎は少しだけ間を開けてから答えた。
「…豊臣が徳川と事を構えるにはまだ少し時間がある筈です。その間に私はもう少し世の中を見て回ります」
「…そうか、世の中を見て回るか。ただ待つ事をせずに自分のやりたい事をする、君らしいね。その結果、徳川の世は捨てたもんじゃない。或いは僕の率いる豊臣は民に仇為す者であると判断したなら僕の敵になってくれて構わないからね」
「ええ、わかりました。その折には改めてその首を頂きに参ります」
「おいおい、それ真田の大将や他の皆にも言ってあんのかよ?特に
「これはあくまでも私と
「また出たよ…
「物凄く自分勝手か。ははは、それは
「全っ然おもしろくねえよ…つかお前ら間違いなく
喜助は慶一郎と秀頼がどこか似ていると感じて正直な感想を伝えた。
「僕らは似ているのか…それはさておき、事が起きるまで暫しお別れだね」
「ええ、今日は話が出来てよかったです」
「僕もだよ。じゃあ、もう戻るよ」
「
喜助は来た道を戻ろうとする秀頼を呼び止めた。
「なんだい
「お前その僕ってのはやめろ。これからは少なくとも人前では僕なんて云うな」
「???」
「お前なんで不思議そうにしてんだよ。総大将が僕なんて云ってたら
僕と書いてしもべと読める事からもわかる通り、僕という一人称は本来、自らを相手と対等または卑下している場合に用いるものであり、身分の高い者や人を率いる者が遣う言葉としては適していない。無論、喜助はそんな堅苦しい事は考えておらず、君主としてもっと堂々とした言葉遣いをしろという意味で云っていた。
「困惑?…ああ、そういう事か。僕が僕と云っていたらナメられるって事だね?」
「そうだ。だからここはやっぱ…」
「余が!
「うおっ!?なんだよ急に…!?つかそれだよ!それでいいんだよ。やりゃあ出来んじゃねえか。
束の間の無駄話であった。
そして…
「では、今度こそ余は戻る。世の中はまだ荒れている、気をつけて行ってくるがよい」
「おう!またな!その言葉遣いなかなか似合ってるぜ」
「
「
三人は三人共に「また」という再会の言葉を伝え合って別れた。
その後、日が変わって七月四日の
「…
秀頼に気絶させられていた茶々が目覚めるとそこには慶一郎の姿はなく、秀頼だけがいた。その秀頼の姿に茶々は驚愕した。
「母上、
慶一郎に髷を落とされた事で散切り頭となっていた自身の髪の毛を全て剃り上げた秀頼は堂々と宣言した。
この
同時刻、駿府城内───
二人の人物が数十体の
一人が立ち、もう一人が
「フフフ…数々の戦で勝ちを
「ま、待て
座った
「ヤメテよ気持ち悪いな…ボクはもうアンタの所有物じゃないンだ。二度と最愛の
竹千代は後の徳川幕府三代将軍
家康と小督、そして姫路…この世でたった三人のみしか知る者がいない出生の秘密を抱える竹千代は家康にとって単なる隠し子ではない。
徳川の権力が一代ではなく引き継がれるものであると世に印象付けるという理由から、本来ならばその器ではないにも拘わらず将軍の座に置かざるを得なかった秀忠とは異なり、家康は竹千代を自ら望んで将軍に置こうとしている。しかし、万が一にも秀忠と竹千代による兄弟間での権力闘争が起これば他の大名に付け入る隙を与える事になる為、家康は表向きには竹千代を自身の孫として三代目の座を確約した。
だが、徳川三代将軍の座を確約されているこの竹千代こそが、家康にとって自身の作り上げた徳川の正真正銘の跡継ぎであり、真の二代目なのである。尚、竹千代の母の小督は、お
その竹千代の名を姫路が出した事でその言葉は
「…それでいい。アンタのその
約十年間、家康の下で
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