第121話「天傑の虚無者」
この者は慶長九年に
供える子と書いて子供…供物となった子という意味合いの子供…即ち姫路は
事の発端は二代目
慶長五年の関ケ原の
表向きは泰平でありながらも実際は人々の
この時に家康が出した条件は『二人の娘の内の一人を差し出せ』というものだった。
父母が互いに三十歳を過ぎて授かった姫路と
家康の下へ子を送る
幼い娘の内の一人を引き替えとして殺しの連鎖から家族共々に抜けるか、家族共々に殺しの連鎖の中で耐え続けるか、姫路の両親はその決断を迫られたのである。
普通の親であれば選択を放棄してしまいたくなる程の決断を両親が迫られていたそんなある日、姫路は自らの意思で両親に対して家康の下へ行く事を打診した。
この姫路の提案に両親は反対しつつも内心では自らの
姫路は
その頭脳は僅か三歳にして大人顔負けの言葉や文字を扱い、五歳になる頃には既に詩書礼楽の四つの教養、文行忠信の四つの教訓、それら二つの四教を合わせた八教を誰よりも深く理解し、誰よりも深く
当初、姫路の両親はその頭脳を歓迎した。母は天からの授かり物として大いに喜び、父は時が来れば女でありながらも天下に名を馳せる存在になると確信していた。いつしか姫路の両親は姫路の才能に対し、天から与えられた無二の傑物であるという意味を込めて天傑と名付け、姫路自身を
だが、姫路は天傑者であったが故に両親から異質と認識される事となった。
天傑が異質へと変化した
姫路は僅か五歳にして自身を含めた万物の存在と生物の死生について
なぜ生きるのか…なぜ生きられるのか…
なぜ死ぬのか…なぜ死ねぬのか…
なぜ私はここに
なぜ私は私なのか…なぜ私は私以外ではないのか…
なぜ人は物と違うのか…なぜ物は人ではないのか…
なぜ人は物を殺すのか…なぜ人は人を壊すのか…
なぜ…なぜ…なぜ………
姫路の
際限なく繰り返される無限の問答の中でいつしか姫路は虚無へと至った。即ち、生も死も自も他も万物の全てが何の意味を為さない
その人物は家康が徳川と名乗る前の松平家時代の死衆として存在した男であり、姫路とは異なる
その男が姿を消して凡そ半世紀…当時を知る者が死衆の中から全て消えて久しい
その男が全てを空虚とした年齢は奇しくも姫路が虚無へと至ったのと同じ五歳であった。
死衆を抜けられる者は死を与えられた死人のみ…
これは、死衆という存在の根幹にして最大の掟である。
だが、その男は死を与えられた
その後、死衆時代には云われるが侭に人を殺して生きていたその男は誰にも云われぬ儘に人を殺して生き続け、戦場の中に
そうして空虚以外の何かを探し求めながら
それは…
死衆の殲滅。
死衆となった者と死衆という存在そのものを全て
死衆唯一の長、死衆の神として名を遺したの男の名は
空身が名を遺す迄は誰一人として死後も名すら与えられなかった死衆達だが、その中で初めて名を名乗る事を許された男が名乗った空身という名は、
姫路と空身は年齢も性別も生まれ育った環境も何もかも違うが、その根幹にあるものはよく似ていた。
虚無と空虚がよく似た意味を為している様に、それらに至った二人の
それは、虚無や空虚ではない何か…即ち虚無や空虚以外の全てであった。二人は天傑であるが故に五歳にして虚無や空虚以外の何もかもを感じることが出来なくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます