第105話「河豚料理」
「なにっ!?消えたと申すか!?きいいー!警備の者達は何をやっておるのじゃ!その侵入者は恐らく
城内の様子を報告にきた男に対して理不尽な言葉を投げ掛けたのは
二の丸内に何者かが侵入したと聞いた茶々はすぐに慶一郎を思い浮かべ、
侵入者が慶一郎だとわかっている茶々は、その目的が秀頼の暗殺であると感じ、得も云われぬ不安感に
この日より二日前、茶々と慶一郎は城外にて会っていた。
それは、秀頼を訪ねる為に大坂入りした日の事…慶一郎がその方法の有無を考えていた時だった───
(この先はどうするべきか…義兄弟だから会わせろと云って通る筈がない。だが、私は一刻も早く
江戸へ行かず、大坂へと来た慶一郎は有無を云わさず秀頼の
しかし、慶一郎は自分がどんな方法を選択するにしても悩んでいる時間はないものと結論付けていた。それは徳川との戦に向けて動き始めている運命の奔流を感じていたが故の結論だった。
「うおっ!?なんだこりゃ!?おい
慶一郎の隣で河豚料理を喰いながら酒を呑んでいるのは
喜助は初めての河豚料理に舌鼓を打ち、目の前で箸を止めた
しかし、喜助の喰っているこの河豚料理、書簡などによる物的証拠はないが、当時既に喰う事を禁じられていたと云われている。その
「……いえ、私は念のため河豚は喰わない事にしていますので。良ければ
「おっ!?ありがてえ!じゃ遠慮な…おい待て。念のためってのはどういう意味だ?」
「あ……いえ、何でもありません」
「何でもねえわきゃねえだろ。おめえ今、何かに気づいてあっつったろ?今のは念のためについて指摘された事に対して思わず漏らしちまったあだ。隠しても無駄だ。さっさと云え」
喜助の指摘した通り、慶一郎は思わずその言葉を漏らしていた。喜助が河豚に毒があると知らずに喰っている事に気がついたからである。
先に云った「念のため」という言葉とその直後に出た「あ」という一文字、それらの言葉は慶一郎が何も考えずに放っていた言葉だった。これは、
信頼しているからこそ自然に出てしまった言葉、その意味について喜助から執拗に問い詰められた慶一郎は正直に河豚には毒があるという可能性について告げた。だが、それを聞いた喜助は「なんだ毒か。そんなら別にいいや」と事も無げに云い放ち、平然と河豚を喰い続けた。
「…なんというか、
「んあ?まあな。
「………いえ、私は
「そうか。なら遠慮なく」
喜助は慶一郎の前にある河豚料理が盛られた皿を自らの前に引き寄せた。
食に無頓着な
「…ところで
「ああ、あれか。ありゃあもう解決した」
「解決?」
「ああ、水戸でな」
「水戸で?…なるほど、そういう用事だったのですね」
「おう!そういう用事だったんだよ。だがもう済んだからおめえと大坂に来れてよかったよ。噂によると大坂はうめえ喰い
(大坂へ食事を楽しみに来たわけではないのですが、
あの日、慶一郎が大坂行きを
喜助は予定通りに
本来、又兵衛は慶一郎と共に大坂へと来る筈だった。その理由は又兵衛の持つ人脈である。
既に牢人となっていたものの、
それは、慶一郎が喜助と義太夫に別れの挨拶を済ませた直後だった。
二手に分かれ、互いに歩もうとした瞬間、突如又兵衛が「わりいな…気が変わった。俺様は江戸へ遊びに行く。だから
これは又兵衛の気紛れであり、運命の導きとも云える出来事だった。
出立寸前になって慶一郎と喜助で来る事になったこの大坂の地で、二人はある人物と再会する事になる。
「くううー!なんてうめえんだ。こんなうめえのに何で他のところで喰えねえんだ?勿体ねえなあ」
(
「この場にいる者は全員動くな!!」
突然店の中に響いたその声はまるで、慶一郎と喜助が大坂入りした事に対して運命が応えた様だった。
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