第106話「羅刹の剣士」
慶一郎と喜助が食事をしていた店の中に響いたその声は大坂を
「この店にて禁止されている河豚料理を振る舞っているという情報が入り、実情を確かめに参った!!今すぐ真偽の確認を致す故、全員動かずその場にて待機せよ!!店主はどこだ!!」
(なんたる偶然だ…大坂入りした直後に
「……おい
「…なんですか?」
この状況でどう行動するのが最善なのかを考えていた慶一郎に喜助が話し掛けた。その時喜助は慶一郎にとって思いよらぬ事を口に出そうとしていた。
それは…
「お前も喰え」
「!?……失礼ですが
「バカ野郎、考えてるからこそだ。俺らと奴らとはまだ距離がある。だから今のうちに証拠を消しちまうんだよ。喰い尽くしちまえば証拠は
「!!…ふふ」
(
「笑ってねえでさっさと喰え」
「ええ。では、早々に証拠を消してしまいましょう」
喜助と慶一郎は四人の侍が近づく前に出されていた河豚料理を喰い尽くした。
そして、他の客とのやり取りを終えた侍達が慶一郎達の所へやって来た。
「おいお前ら、何を食っていた?」
「あぁん?何ってお前、
江戸時代後期迄は戦場での武士や重労働者を除いて一日二食が主流であった。
尚、現代社会に於いて一日三食が好ましいとされているが、その理由は『食糧難を脱して飽食時代が訪れた為に食糧を節約する必要がなくなった』、『二食では経済が発展しないために一日三食が推奨された』などの説があるが、三食が好ましいとされた真の理由やその根拠はわかっていない。
「だからその飯はなんだったのだと訊いている!!貴様まさか河豚を食したのではあるまいな!?」
「河豚だあ?なんだそりゃ?そいつはうめえのか?」
「河豚が
「さあな。何喰ったかなんて知らねえよ。…そんで、もし俺がそれを喰っていたとしたら何だ?ふん縛って首を
「喰ったならばそれも致し方あるまい。だが、どうしても河豚食を見逃して欲しいと云うならば……ほれ」
「ああん?てめえこりゃあどういう事だ?」
役人の内の一人が着物の袖の
(この男…なるほどな。河豚食禁止令は明国へ戦を仕掛ける折に起きた大量死がきっかけとして
慶一郎の考察はほぼ的中していた。二人がいた店に来た四人の役人は情報など得ていなかったのである。
この四人は何の情報もなく店へ押し掛け、河豚を扱っているか否かの真偽は関係なく死罪になるという恐怖をちらつかせて店主と客を脅し、場合によっては偽の証拠をでっち上げる行為を繰り返していた。
これは役人という立場に
「鈍い奴だな。
「おうおう。確かに俺は
「なにい!?」
「まあ待て。常識知らずの田舎者に教えてやろう。これはな…」
「助かりたかったら金を入れろという事。そう云いたいのだな?」
「おっ?そっちのお前はよくわかってんじゃ…うっ!?お前は!?」
「ひいっ!?」
「うわあっ!?」
喜助と役人との会話に慶一郎が交ざった瞬間、役人達は慶一郎の顔を見て驚いた。
「し…しし、死神だ!死神
「お助けー!!」
「殺さないでー!!」
「お、おい待てお前ら!おお、俺を置いてくな!こ、腰が抜けて…ひいっ!!?」
「おいお前。這って逃げるのは構わねえが、その前に奪った金を返してからにしろ」
腰を抜かして逃げ遅れた役人の肩を掴んたま喜助が笑顔でそう云うと、その役人は袂から客と店主から奪った金を出してそそくさと這い出ていった。
「ほ、本物の死神
「あれが…悪鬼ですら道を譲ると噂されている千人斬り…!?」
「嘘でしょ…あれが本当に
「
「ら、羅刹の剣士が遂に大坂へ来た…!?」
死神、千人斬り、八ツ胴、神業使い、そして、羅刹の剣士。
店内に居合わせた者達が老若男女を問わず
大坂では他の地とは異なる立花慶一郎の噂が流れていた。
その噂とは…
その
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます