第22話「後藤又兵衛基次」
「くっくっくっ、
「一体誰のせいだと…
横柄な態度と発言で客人である潮に接し、人を小馬鹿にした態度で早雪を苛つかせているこの
その有能さは摩利支天の再来と称される程の巧みな戦ぶりが物語っている。
早雪は上田合戦が起きる直前に又兵衛の家へと預けられていた。
又兵衛は関ケ原の折には黒田家の一員として徳川方に付いていたが、これは敢えて徳川方である又兵衛に孫を預け、戦局がどうなったとしても孫の身の安全を確保するという昌幸の策であった。
結果として、その策により早雪は九度山への
「
「
「
潮は片膝を立てて今にも立ち上がらんとする早雪のことを制止し、早雪は渋々それに従い元通りに座った。
「そうだ、座れ座れ。
「誰があなたなど!その様な嘘偽りは捨て置けません!表へ出なさい!私と決と…」
「まあまあ、
早雪は再び潮に制止された。
又兵衛は早雪を小馬鹿にした態度のまま潮と早雪から少し離れた場所に背を向けて腰を下ろした。
そして、又兵衛はそのまま二人に背を向けた状態で口を開いた。
「おう、おめえら。俺様はこっち向いてるから居ねえもんだと思って話を続けろや。わざわざ調べてここまで来たんだ、何か大切な話があんだろ?」
「ですからその態度は…」
「
潮はまたも早雪を制止し、小声で早雪に耳打ちした。それに対して早雪は不機嫌そうにしながらわかっているという視線を潮に送って引き下がった。
「くっくっくっ、じゃじゃ馬娘も元世話役の
「くっ!」
「
「わかっています!私は冷静です!私とて十年もこの人と暮らしているのですからこの人の手口は知っています!さあ
早雪は苛立ちを隠せなかったが、精一杯に自制して云った。その言葉を聞いた潮は本題へ移ることにした。
まず潮は九度山にいる信繁と昌幸の様子を報告し、その後で信繁からの書状を早雪へ手渡した。
早雪の受け取った書状には
そして、書状の最後には早雪への指示が書かれていた。
お前は潮と共に諸国を巡り新たな世を共に描く協力者を集いながら慶一郎殿を探せ
呉々も後藤殿に失礼のない様にな
信繁
早雪への指示、父である信繁から娘の早雪に向けた言葉はそれだけだった。
「これは…!?」
信繁からの書状を読み終えた早雪は、
「へえ、
「なっ!?
早雪がほんの一瞬だけ気を抜いた隙に又兵衛が早雪の手から書状を取り、それを読んでいた。潮も早雪もそれを制止したが、又兵衛は一向に聞かなかった。
そして、書状を逆から読み始めた又兵衛はその途中で表情を変えた。
「な…!?おい
又兵衛は書状の内容について潮を問い質した。又兵衛が潮に問い質した部分にはこう書かれていた。
立花慶一郎
またの名を豊臣慶一郎
この者は私が以前送った書状に記載した身に修羅を宿す者
立花甚五郎殿の子として育った者であり秀吉公の血を継ぐ者である
「答えろ
立花甚五郎の息子として育った者…
この一文に又兵衛は驚き、声を
「
「くっくっくっ…ご存知も何も、この
「なっ!?
「
「もしも…
潮は甚五郎が死んだこと隠し、素知らぬ振りをして又兵衛に訊いた。これは甚五郎を知る者が居た場合はその死を伝えずに時が来るまで隠しておけという昌幸の指示だった。
時とは、慶一郎を見つけ出して真田の意志を打ち明け、慶一郎がそれに応じて志を共にする事が叶ったその時のことである。
「あ?んなもん決まってんだろ。まともにやりゃあ
「…
早雪は普段から自信満々で唯我独尊という態度の又兵衛が、
「
「では、
「立合ならそれはしねえよ。だが、俺がお前によく云っている戦場での死合なら卑怯な真似こそが正攻法だ。卑怯な真似ってのはつまり策だ。そうだな…もし俺が戦場で奴と
「…
「
「くっくっくっ、気にすんな
又兵衛は早雪に武士としての在り方と戦場での作法を教えていた。
この後、早雪と潮は信繁の命令通りに全国を巡って協力者を集いながら慶一郎を探す旅に出る。
そして、この時から約三年半が経過した慶長十九年四月七日、信繁は協力者の力添えにより、一族共々に
それから僅か十日後、早雪と潮と同じ様に全国を流浪をしていた慶一郎の
生まれる前に定められた宿命と、人の手によって紡がれた運命、宿命と運命が激しく交差して慶一郎と早雪は出逢ったのである。
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