第23話「異常と正常」
「―――以上が私に
「父上があの
慶一郎は父である甚五郎の抱えていた秘密に驚いていた。
「事が事だけに隠していたのでしょう。
「そうですか…」
(父上…あなたは主君である
信長が命を落とした運命の本能寺…そこに護衛を勤めていた筈の甚五郎が居なかった。
本来であれば護衛として常に主君と共に行動してそれを
ここにも甚五郎が抱える秘密があると慶一郎は直感していた。この慶一郎の直感は当たっていた。
甚五郎は慶一郎の身に宿す宿命、慶一郎の出生については知る限りを話したが、甚五郎自身については多くは語っていなかったのである。
「…さて、
辺りはすっかり明るくなり、
二人は暖を取るために焚いていた火に川の水をかけるとそれを足で踏み、それから二人は山賊の
「………うく…」
「
「いえ…大丈夫で……うう……おぇ…」
慶一郎と早雪はある意図から山賊の
早雪はこの時代に生きている者として死屍は見慣れていたが、獣や蟲に喰い荒らされた状態の死屍は何度見ても慣れることがなく、立ち込める臭いと凄惨な光景に気分が悪くなっていた。
(本来ならば
慶一郎はもはやどの様な凄惨な死屍や光景を前にしても何一つ揺らぐことはないと感じていた。
それは、慶一郎が人としての心を無くしたわけではなく、甚五郎の教えと、甚五郎を亡くしてから慶一郎が過ごしてきた死と隣り合わせの生活がそうさせていた。
『異常事態に対して心が揺らげば死ぬ…故に
これは、
『死地に
これは慶一郎が死と隣り合わせで生きてきて学んだものであった。
慶一郎は死合においては決して揺らぐことのない心を保つことが生を掴むことだと知っていた。
そして、普段からそれを心掛けていた。
「やはりないな…
慶一郎は自らが調べた死屍の全てがある物を持っていないことを確認し、近くで死屍を調べている早雪に問い掛けた。
「こちらもありません…」
「そうですか。何れも器や盃すら持たぬということは、やはりこの者達の棲処は近くにある可能性が高い。
慶一郎は山賊の死屍が水や食料を携帯しているか、それを入れる器や盃を持っているか否かを調べていた。
これは、水や食料を携帯していれば流人の賊である可能性が高く、逆に器や盃すら持たぬとあれば近くに棲処を持つ、この土地の賊の可能性が高いことを意味していた。
そして、昨夜の一件で死屍となった者達は何れも器や盃を持っていなかった。
「
慶一郎は近くの山を指差しながら自らの意見を早雪に確認したが、早雪はまだ気分が優れぬ様子で軽く頷いただけだった。
それから暫くすると早雪の調子も元通りになった。それに合わせて二人は、当初の予定である集落を廻ることをせず、山賊の棲処になり得そうな近隣の山を直接調べることにした。
そして、慶一郎と早雪は手始めに一番近い山へと向かって歩き出した。
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