第2話
雪乃には不思議なことがいくつもある。
まず頭が良い。
授業で理解出来ないことがあると、頭の中で自問自答……というより誰かと相談をするように独り言をいい、小テストではいつも満点を取る。
正直、何故『姫女』にいたのか不思議な気がするが、国公立大に行く必要の無い裕福な家庭の子女なら、私立女子校は良いかもしれない。
だったら何故、今更この進学校に来たんだ?
加代が雪乃の家に遊びに行ったら、表札が国木となっていたらしい。
いつも笑みを絶やさない。女子からもよく話しかけられるし、どんな問いかけにも丁寧に対応する。それはまあ不思議ではないけど。
軽いのり? それができるのはかなり親しくなった証拠だ。僕に対してはため口でさえない。
突然雪乃のセーラー服が、我が校のセーラー服に変わった。
それほど目立った違いは無いので、変える気は無いと本人も言い、学校側も了承していた筈なのに。
杉下が、『シンが君の制服を不思議がっていた』と面白そうに話した翌日のことだ。
やはり、作ったばかりのように生地は新しく、身体にピッタリ合っている。
スカートの丈は、殆どの女子がウエストで巻き上げている長さに最初から仕立てているので、彼女に限ってウエストがダブついて野暮ったいという事もなかった。
まるで、異次元の能力を使ったようだ。
「雪乃ちゃんが着ると、うちの制服もいいじゃん」
杉下が言うが、だから、そこじゃねぇんだって。
雪乃を中心にしたグループができた。
僕はその中に入ってない。
初日に彼女の案内を途中でやめたからだと、杉下が言ったが、それはない。
何故なら雪乃が「皆さんと一緒にうちに来ませんか?」と、僕を誘ったことがあるからだ。
「本当に残念ながら、詰まっているんだよ。生徒会で引き継ぎをやったので、行事を一つ見守らなくちゃいけないんだ」
そう言って断ったら、手を取らんばかりに近づいて、「では、時間ができたら必ず来て下さいね。お知らせしたいことやお願いしたいこともあるので」
そう言って微笑んだ瞬間、硬い氷のような表情になって横を向いた。
えっ。いや。今のは何だ。怒った? 目の錯覚?
見直すといつものとおり切れ長の目に神秘的な瞳を浮かべて、笑顔で僕を見つめていた。
雪乃グループの中では宮田が一歩抜き出たようだ。
皆と離れたところで、雪乃と二人だけでよく話している。
宮田は買い物を頼まれたみたいで、売店からどうでもよさそうなものを嬉しそうに買って雪乃の許に走る。
「これぐらい俺が払っとくから」「いいえ。それは駄目。じゃあ指相撲で勝負しよっか」なーんて会話をしたのだろう。
雪乃と宮田は指相撲を始めた。
宮田の片手を雪乃は両手でつかんで、キャアキャアとはしゃいでいる。確かに可愛らしい。
雪乃グループの一人に訊くと、やはり二人のことはみんな見えているのだ。
特に僕の前でイチャついている訳ではないらしい。
「お前らさ、羨ましくねぇの?」
グループの中家という奴に訊いてみた。
「別に。順番だしな」と言う。そうか順番なんだ。
雪乃の相手がその中家に替わった。
ここ数日、宮田の元気が無い。急に痩せてきたようだ。昼休みになると雪乃とどこかに出ていき、雪乃だけが先に帰ってくる。そう言えば雪乃が昼飯を食ったのも見たことが無い。
中家と雪乃は何がおかしいのか二人で手を叩き合って笑った後、雪乃がスカートをめくって太腿を出した。
「わっ」思わず声が出たのは僕だ。
どうやら、虫か何かに刺されたという話しらしいが、ショーパンはいてることを知ってても、声が聞こえない距離から特殊能力で見ている僕はドキッとする。
だが中家はそれどころではなく――完全に――雪乃の魅力に呑み込まれてしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます