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 洗顔や歯磨きなどなど、朝のセットを終わらせてからリビングに向かうと、そこには全員が揃っていた。一瞬、うぐ、と立ち止まってしまう。

 どうにも、緊張してしまうのだ。一緒に暮らすようになってから、一気に『そういう対象』に見えてしまうようになったのか、変に緊張するようになった。皆への言葉をよく考えるようになったからかもしれない。

 皆が、気が付いているのかは知らないけど。


「お、おはよ」


 わたしが声をかけると、びくり、と、四人が肩を跳ねさせる。彼らも、変に緊張しているようだった。おかしいな、昨日まではなんてことなかったのに。


「あ、えっと……マレーゼ、おはよう」


 一番に声をかけてくれたのはフィジャだ。四人はテーブルに集まっていて、何やら話をしていたようだった。

 割り込まない方がいい、男同士の話だったのかな、と首を傾げると、イエリオが咳ばらいを一つした。


「あの、マレーゼさん……ええと……」


 何か言おうとして、イエリオは言葉を探しているようだった。それに痺れを切らしたように、ウィルフが「ちょっとお前こっちにこい」とわたしを呼ぶ。

 わたしは素直に彼らの元へと行った。


「――ほらよ」


 そう言って差し出されたのは、細長い、長方形の箱だった。片手で持てるくらいの、あまり大きくなくて軽いもの。

 わたしは反射でそれを受け取る。


「いや、流石にもう少しなんか言い様があるでしょ」


 そう呆れたように言うのはイナリだ。

 この箱が何なのか全く分かっていないのはわたしだけらしい。フィジャもイエリオも、少し呆れたような表情をしていた。

 なんなんだろう、これ。


「うるせえな、誰が渡すだの、つけるだの、いつまで経っても決まらねえんだから本人につけさせろ」


 三人からの視線も気にせず、ウィルフはいう。つける、ってことは、装飾品か何かだろうか。このサイズだし。


「……開けても?」


 わたしがそう言うと、四人とも、おのおの承諾してくれる。

 わたしは、テーブルの、わたしの席について、綺麗にラッピングされた包装紙を丁寧に剥がしていく。普段はラッピングなんて、適当にびりびり破く派の人間だけど、このときばかりは綺麗に開けた方がいい、という気がしたのだ。


 そして、その予感は見事に的中する。


「――これ、は……」


 包装紙の中から出てきた箱に納められていたのは、一本のネックレスだった。

 小ぶりな石が四つ連なっていて、それぞれ、皆の目の色をしている。シンプルながらも、素材が良さそうで、高そうな見た目をしていた。

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