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火事場の馬鹿力、というのは記憶力にも適応されるのか、わたしは迷うことなくイナリたちのところへ、ティカーさんを連れて戻ってくることができた。
戻ってくると、同じように、それぞれ呼ばれた警護団らしき人や、冒険者っぽい人たちが到着していた。騒ぎを聞きつけた人もやってきたのか、全体的に人が増えていた。
イナリ――イナリは、どこ。
わたしは辺りを見回して、イナリを探す。
「イナリ!」
ようやく見つけた彼に駆け寄る。
イナリはうつむいて、地面に座り込んでいた。その周囲に、火の粉にしてはやや大きいけれど、炎とは言えないほどの火が舞っている。空気が熱いけれど、火傷するほどじゃない。
「イナリ、大丈夫っ?」
わたしがイナリに声をかけると、イナリは「ああ、うん……」と少し気の抜けた声を返してくれた。声は小さいが、息も絶え絶え、という風ではなく、単純に、疲れているようにも聞こえる。
「彼が患者か?」
「そうです。多分、酷い火傷を――イナリ? 他にも怪我してるの? 大丈夫?」
ティカーさんに声をかけられ、イナリを診てもらおうとしても、彼は顔を上げない。もしかして、何か致命傷を負ってしまったんだろうか。
どのみち、かなりの火傷をしているはず。早く診てもらわないと、とわたしが焦っていると、背後からシャシカさんが声をかけてきた。
「医者の前でいうのもアレだけどさ、経験から言って死ぬような傷じゃないさ。でも――イナリ、とっとと諦めて顔上げな」
惚れた女のための傷なんて勲章だろ、というシャシカさんは、あまり怪我をしていないようだった。服のところどろこが焦げ付いてはいたけれど、目立つ傷がない。
「それじゃあ、失礼するよ」
そう言って、ティカーさんがイナリの顔を上げさせた。
――その様子に、わたしは思わず息を飲んでしまう。
顔の半面が、赤くただれていたのだ。酷いところなんて、赤を通り越して白くなってしまっている。それだけじゃなく、首元も同様だ。
胸元も不自然に濡れていて、多分、メルフの血がかかったときのものだろう。え、じゃあ、もしかしてその下も火傷してるの……?
あまりの傷の酷さに、わたしは半泣きになった。
「ほ、本当に死なないの? 痛くない? だって、こんな……え、本当に大丈夫なの?」
火傷って、そこまで酷くなくても面積が広いと死亡率上がるんじゃなかったっけ、とか、あんまり重度だと神経なんかも駄目になってしまっていっそ痛くないんだっけ、とか、聞きかじったような知識がわたしの頭の中をぐるぐる回る。
えっ、こんなに酷いのにそこまで痛がっている様子がないということは、かなりの深い火傷ってこと……?
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