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でも、そこを隠して説明するとしたら、イナリとそんな話になって、と言わないといけないの? なんか勘違いされそうじゃない?
悩んだ挙句、その辺の説明を全部すっとばして、とにかく、子供が出来るかどうか気になっただけ、という言葉で押し通した。
「……出来るかどうかで言えば、出来るはずですよ。獣人同士との子よりは確立が低いようですが」
動揺を隠すように、イエリオは軽く口元を手で覆って答えてくれる。あんまり、動揺を隠せてはいないけど。
「人間は大抵、大富豪か貴族の元に嫁ないし夫として嫁がされますからね。そういう家は跡取りが欲しいので、別に獣人を用意することがほとんどですが、人間が子供を産む事例もありますし――」
「……あの」
そこまで聞いて、わたしはさらなる疑問が沸いてしまって、思わず声を上げる。話をぶった切る様になってしまったが、どうしても気になるのだ。
「その人間は、人間同士で出来た人なんですか? 人間はいたらお金のある人の所へ連れて行かれるんですよね?」
「それは……」
わたしの質問の意図を察したようで、イエリオの表情が一気に真剣なものとなる。
千年前に人類がほぼ滅んで、文明も過去のものとなってしまって。その少し後に、世界を元に戻そうと魔法使いが動物を人間に変えて。この時点で、既に人間より獣人の数が多かったはずだ。
人間がどのくらい生き残っていたかは知らないが、人間がいれば権力や金の持った獣人の伴侶にさせられる。ということは、純粋な人間は獣人の伴侶となり、人間同士で子を成すことは難しくなる。
それが既に、約千年前。
はたして、そんな状況で、人間がまだ、残っているのだろうか。
「で、でも! 仮に人間と獣人の混血でどんどん獣人に寄っていっているとしても、一番の元をたどれば、純粋に人間と獣人の合いの子が生まれているわけですから、作れない、ということはないんじゃないでしょうか」
「確かにそうかもしれないですが……。猿種、でしたっけ。あれ、すごく、人間に近いですよね?」
闇が深そうなのでみなまで言わなかったが、言いたいことは伝わったらしい。
権力や金がある相手に、人間を献上する。その際に、金銭など、何か利益があったら。
滅多に見られない人間。憧れの存在で、美醜の根本的価値観にもなるくらいだから、生物としては、知っている。
でも、それだけ特別なものなだけあって、実物を見る人は少ない。
そんな中、人間そっくりな獣人がいたら――?
「……もしかして、私たちが人間だと思っていたのは、猿種の獣人だった、とでも言うんですか?」
「それは、流石に分からないけど……」
でも、ジグターさんは一見して、人間だった。よく観察しないと分からないくらいには。
もしも、彼よりも、もう少し耳が小さい猿の獣人がいたら、わたしでも、人間との区別が付かなかっただろう。
とはいえ、しっぽがあるとは思うが……、切り落として人間のふりをすれば、今後一生働かなくていい上に贅沢をして暮らせる、となれば、しっぽくらい、と思ってしまう人が、いないとは限らない。
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