306

 数日後。確か今日はイエリオが休みだと言っていたはず……と思い、わたしは彼の家を尋ねることにした。

 子供のことを考える、とか、皆と向き合う、とか、言うだけ言って実は獣人と人間の間に子供は出来ません、なんてことになったら何とも言えない。

 イエリオの家のインターフォンを押す。


「どちら様――ああ、貴女でしたか」


 休みの日はいつでも遊びに来ていい、とは言われていたが、アポなしだったので、いるかどうか賭けではあったのだが、在宅していたようで良かった。

 こういうとき、電話やメール、メッセージアプリなどの連絡手段がないこの時代が不便に感じる。シーバイズも前世に比べたら発達していない方ではあったが、電話は流石に使われていたし、メール代わりに速達の、魔法じかけの伝書鳩がいたのでそこまで不便には思わなかったのだ。


「珍しいですね、どうかしましたか?」


「ちょっと質問があって。時間、大丈夫ですか?」


 珍しい、というのは確かにそうかも。フィジャの家に遊びに行くことは多いが、イエリオはそうでもない。フィジャの家に行くときは大体この時代の共用語か料理を教えて貰っていることが多く、目的があるから、というのもあるが、イエリオの休みが少ないということもあって、なかなか彼の家を出てからは、足を運ぶことが少なくなっていた。


「ええ、問題ありません。今、お茶を入れますから」


 どうぞ上がってください、という言葉に甘えてわたしは家へと上がる。

 家の中はすっかり綺麗になっていた。スパネットがやってきて、あちこち壊された場所は全て修復されている。そこだけ新品なので、ちょっとだけ目立つけど。

 部屋に案内され、わたしは用意されたお茶を少し貰ってから、本題に入る。


「あの、変な質問で申し訳ないんだけど……」


 わたしは一応前置きをしておく。わたしがそんな聞き方をすることが珍しいのか、イエリオは不思議そうな表情をしながら、首を傾げた。


「――獣人と人間の間に、子供って出来るの?」


 びくっとイエリオの肩が跳ねた。相当に予想外の質問だったらしい。飲もうとしていたお茶を噴き出すことはなかったが、カップのふちに口をつけたまま固まっている。

 そして、ゆっくりとカップをテーブルの上に置いた。


「つ、作る気になったんですか……?」


 すごく動揺したような声音でイエリオが言った。めちゃくちゃ声が震えている。


「つ、作る気になったというか、えっと、事前確認というか、出来ないなら作る作らないの話じゃないなっていうか……」


 素直に全部話してしまってもいいんだろうか。どうしてそう思ったのか、という説明をするなら、どうしてもイナリの親の話になる。

 わたしに言うくらいだから、イエリオも知っているとは思うんだけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る