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帰宅時間がバラバラなフィジャとイエリオと違って、イナリの帰宅時間は結構一定だ。いつも大体同じ時間に帰って来る。
そのため、非常に夕飯を作る時間を考えやすい。フィジャは作っても遅くに帰ってきたり、逆にまだ完成してなくて帰ってきたばっかりなのに手伝わせてしまったこともある。
イエリオは本当に時間が読めないので、最終的に、彼が仕事の日は余り夕食を作らなくなったように思う。フィジャはどれだけ遅くなっても帰って来るけど、イエリオは最悪研究所に泊まり込む、なんてこともあったので。
昼間、あんなことはあったけれど、今日の帰宅時間も、大体いつもと同じくらい。時間を逆算して作ったので、完成して後は盛り付けるだけ、というところでイナリが帰ってきた。
「あ、おかえり」
イナリの家はワンルームの作りなので、帰って来るとすぐ顔が見られる。落ち込んでるかな、と思っていたけど、案外、いつもと変わらない表情で、玄関に立っていた。
「あとご飯よそるだけだからすぐ出来るよー」
だから仕事の鞄片付けてきたら? という意味で声をかけたのだが、イナリは何故かこちらを少し伺うような様子を見せた。なんだろう、やっぱり昼間の件、引きずってるのかな。
向こうがどう出るかを向き直って待っていたら逆に話しづらいかな、それとも手を止めて聞くようにしたらいいかな、とわたしは悩む。ちなみにわたしは、基本はちゃんと話を聞いてほしいけど、切り出しにくいことは片手間に聞いてほしい、というめんどくさい混合型だ。
中途半端にはなるが、ちらちらとイナリの方をうかがいながらも一応、形ばかりには手を動かす。
しばらく待ってみると、イナリが「……昼間は――ありがと」と、非常に小さな声で、お礼を言ってきた。
「あ、ポーチ? やっぱり必要だったんだ」
迷ったけれど持って行って良かった。やっぱり仕事で使うやつだったらしい。
「……いや、それもだけど……」
もごもごとイナリが口ごもる。
「……?」
他にお礼を言われるようなことしたっけ? むしろ我がままを言いまくったわたしの方がお礼を言うべきでは?
思わず首を傾げてしまうと、イナリはちょっと顔を赤くして、「何でもない!」と声を荒げ、キッチンを通り過ぎて部屋へ行き、鞄を片付けていた。
なんか怒らせちゃったかなあ。でも、本気で怒ってるっぽくはない。お腹が一杯になれば少しは落ち着いて、気が立つこともなくなるだろう。
わたしはパパーっと料理を盛り付け、部屋へと運ぶのだった。
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