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今回ばかりは「最終的に着けばいいや」なんてのんきなことは言っていられないので、少し進んで道に自信がなくなったらすぐ人に聞く、を繰り返しながら、ようやくイナリの店へとついた。
なんとか日が高いうちに店へたどり着けることが出来て、ホッと一安心だ。これで折角届けに来たのに終業間近、なんてことになったら最悪だ。
ガラス窓から中を軽く覗く。そこそこ混んでいるようだった。
今日は客じゃないし、さっさとポーチを渡して帰ろう、と店へ入る。
そこまで人がたくさん! という程でもないが、混んでいるな、とすぐに思ってしまうほどの人がいる中でイナリを探すのは少しばかり大変だ。
きょろきょろと辺りを見回し、イナリの姿を探す。他の客にぶつからないように気をつけながら、店内を歩く。
「――あっ」
居た。バックヤードとか倉庫とか、裏に引っ込んでいたら直接渡せないから、外に出ていてくれて助かった。
イナリの元へいき、声をかけようとして口を開いたが、そのままわたしは言葉を飲み込む。棚の陰になって気が付かなかったが、客がいて、イナリは接客中だった。
少し背が低いものの、がっちり筋肉がついていて、体が厚い男の客だった。服から覗く肌にはちらほらと古傷が目立つ。冒険者の客なのだろう。
流石に割って入るのは駄目だ。
近くでぶらついて、接客が終わったら声をかけようかな、と思っていると――。
「マァ、本当は別の店員が良かったんだが、仕方ねえよなァ」
ちょっと癖のあるイントネーション。でも、喋り方より発言の内容の方が気になる。会話を最初から聞いていたわけじゃないから話の内容は分からないが、随分と棘のある雰囲気だ。
「は、はは……申し訳ないです」
ぎこちない笑い声。これはイナリの声だ。
その笑い声はなんだかすごく物悲しくて、とても聞いてはいけないものを聞いてしまったような気になってくる。
今の位置からでも、イナリが急に振返ったりしない限り見えないと思うが、なんとなく、居心地が悪くて完全に見えない場所へと移動する。
「オレも美形な店員に選んで貰いたかったよ。ほら、お前みたいのよりも美形に選んで貰ったほうのが、センスいい服選んでもらえるジャン?」
いやそれ、別に顔は関係なくないか? 、もしイナリがやばいくらいに奇抜な格好をしていたらその言い分は分かるけど、全然そんなことないんだから、関係なくないか?
と、突っ込みたくなったがわたしは男性客のことを知らないので。この男に声をかけて反論したところで、わたしが変な目で見られるだけで。
それだけならまだいいが、この店にはヤバい客がいる、と変な噂が立ってしまったら申し訳ない。
相手はシャシカさんじゃないのだ。シャシカさん相手だったら、まあ、ある程度突っ込んで言ってもいいような間柄な気もするが、この男とはそういう関係じゃないので。
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