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少しして、へくち、といういかにもぶりっこなくしゃみが部屋に響き、わたしはハッとなった。うわ、わたしよりも可愛いくしゃみだな、男のくせに……とか思っている場合ではない。
「フィジャ、早く着替えてきて! お皿の片付けはわたしがしておくから! また熱が上がっちゃう」
「……うん、ごめん、お願いします……。あっ、手を切らないように気を付けてね」
フィジャを見送ると、わたしは、ほうきとちりとりを持ってきて後片付けを始める。大きな欠片はもう回収してあるので、サッと掃くだけだ。たいして時間はかからない。
パッと見た感じでは、もう全て掃けただろうか。掃除機だともうちょっと安心できるんだけど。
フィジャの家には掃除機がない。これはこの世界に存在しないから、というわけではなく、単にフィジャが持っていないだけである。まあ、一人暮らしだと、なくても案外なんとかなっちゃうものだよねえ。
お皿を片付け終えて、手を洗って台所に立つと、ちょうどフィジャが戻ってきた。今度はちゃんと服を着ているし、なんならちょっと厚着だ。
ズズ、と椅子を引きずってカウンター越しにフィジャが座る。カウンターに頬杖をつきながら、こっちを見てきていた。
「休まなくて大丈夫? 無理にこっちに来なくてもいいんだよ?」
熱は下がったとはいえ、ベッドで休んでいた方がいいだろうと思って声をかけたのだが、「うーん……」と曖昧な返事だけが返って来る。
「まあ、フィジャがいいなら別にわたしは構わないんだけど……」
そう言って作業するわたしのほうを見ながら、またフィジャは唸り声のような、微妙な返事をしてくるのだった。
フィジャは体調が悪くなると一人でいるのがさみしくなるタイプなんだろうか。
わたしは割と体調不良のときは、仕事とか家事とかは変わってほしいけど世話を焼かれるのは嫌で放っておいて欲しいタイプなのでいまいちピンと来ないが。
スカートの裾を握ったり、寝るまで話しがしたいとか、まさにそんな感じがする。
「……マレーゼはさぁ」
とぷとぷと鍋に牛乳を入れていると、ふと、フィジャが声をかけてくる。独り言のような呼びかけに、少し反応が遅れた。
「なあに?」
「答えたくなかったら答えなくてもいいんだけどさぁ」
「……どうしたの。聞くだけ聞くけど……」
妙に予防線を張るような言い方に、わたしは思わず牛乳のパックを傾ける手を止めた。
フィジャの方を見れば、彼はこちらを向いたままで。
変に前置きをしていたにも関わらず、あんまり変化のないトーンで、
「ボクらと子供、作れる?」
と言った。
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