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「それで、その――あのね、フィジャ。わたしはこの時代の生まれの人間じゃないから、それを分かった上で聞いて欲しいんだけど、特に気持ち悪いとは思わないよ」
わたしから見たら、そんなものは美醜の判断にはならない。わたしにはわたしの美醜観があるので、醜いものを美しいと心から言うことは出来ないし、その反対もまたしかり。嘘をつくことは出来るけど。
こればっかりは、仕方ないと思うのだ。千年も時代が違い、そもそも国が違えば、価値観は変わるものである。
「でも――」
まだ何か言おうとするフィジャに、わたしは言った。
「他と違うことが駄目なら、わたしが一番駄目だよ。この耳としっぽは、偽物なんだから」
鱗の色が一枚多いくらいなんだ。私なんて人間だぞ。ほとんど獣人しかいないこの時代、珍しいを通り越して異端である。
この世界――この国では、獣人は人間を本能的に好意を抱くようになっている、ということらしいが、それがなければ、わたしはこんなところでうろうろしてなんかいられない。
絶滅したと思った生き物がひょっこり現れたらどうなるか――『保護』という名目の元、研究され、繁殖して数を増やそうとするはずだ。
お貴族様の嫁にされる、という時点で、結構生易しいのである。
「だから気にしなくていい……っていうのは少し違うかもしれないけど、わたしは気にならない。むしろ、剥がした跡の方が痛そうで気になるから、もうこれ以上剥がさないでって感じだわ」
太ももなんてそうそう見る場所じゃないから、次にフィジャが一枚、また一枚と鱗を剥がしても、気が付かないかもしれないが。
「それに、フィジャはヴィルフさんのこと、気持ち悪いって思ってる?」
「思ってない! ヴィルフは大事な友人だよ」
「じゃあ、イナリさんたちがそういうこと、気にするの?」
モテない者同士の集まり、みたいなことをいつだか言っていたけど、少なくとも、あの三人はフィジャの鱗の色の数なんて気にしないだろう。気にしないというか、興味がなさそうである。
だって、あの三人はフィジャがフィジャだから、つるんでいるように見えるから。
「ヴィルフさんには釘刺されちゃったんだから。『ちゃんと面倒見れるよな?』って。心配してなかったら、そんなこと言わないでしょ。――ちゃんと愛されてるよ、フィジャは」
そう言うと、少しして、「ずっ」と鼻をすする音が聞こえてきた。多分、泣いているのだろう。
でも、わたしはそれを指摘せず、優しく肩を叩いた。
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