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 なんとなくイメージは付くが、イメージで料理をすることが許される腕前じゃないと自負しているので、おとなしくフィジャに作り方を教えてもらった。

 材料はパンとミルクだけで出来上がるそうだ。一瞬、牛乳……ということは、乳牛がいる……? 牛の獣人、街で見かけたような気がしなくもない……? と思考が止まってしまったが、この千年後の世界では、ミルクはそういう木の実の果汁のことをさすようだ。ココナッツミルクみたいな感じだろうか。


「……パン、なかったような……」


 先ほど、リンゴを探したとき、キッチンにパンがなかったような気がする。さっき探していたのはリンゴだし、見落としたのかも、と思っていたが、あっ、とでも言いたげなフィジャの表情で、やっぱりなかったんだな、ということを察する。


「やっぱり、家にあるもので適当に作ってくれればいいよ」


 フィジャはそう言うが、ヴィルフさんに啖呵切った手前、そうするね、とはちょっと言いたくない。病人の我儘くらい、聞けないでどうする。


「パンくらい買ってくるよ」


「パン屋さんの場所、知ってる?」


「…………」


 痛いところをつかれた。普通に知らない。この辺の立地はあまり頭に入っていない。近くの病院と、フィジャのお店までの道のりはなんとなく分かるが、他のはおぼろげだ。


「い、いや、教えて貰えば行けるわよ!」


 ちょっと時間かかるかも、とは言わない。ここで不安そうにそう言えば、フィジャが遠慮するのは目に見えている。


「大人なんだから、おつかいくらい、余裕よ!」


 わたしが強くそう言うと、「それじゃあ頼もうかな」と、フィジャが簡単な地図を書いてくれた。そして、お金と一緒にそれを渡してくれる。


「無理はしないでね。分からなくなったらそのまま帰ってきていいから」


「もー、わたしを何歳だと思ってるの。子供じゃないんだから大丈夫だって」


 あまりの子供扱いに少しくすぐったくなる。


「……何歳だと思ってる? ちなみにチーバイズの成人は十八ね」


 気になりすぎて真面目に聞いてしまった。お酒を飲めることを知っているから、一応のラインは教えておく。

 フィジャは「えーっと……」と少し考えた後、「二十くらい?」と答えた。成人してから少しは経っていると思ったんだろう。……成人して少し経っているという判断であの対応なの……?


「ちなみにフィジャは?」


「ボク? ボクは二十だよ」


 ははあ、なるほど、同い年だと思われているのか。ちょっと頼りない同い年だったら、ああやって子供扱いというか、面倒を見てくれるというか、そういう対応だったわけだ。


「……ところでイナリさんは?」


「えっ、イナリ?」


 急にどうしたんだろう、という顔できょとんとされる。いやだって、二十歳に酒瓶の注ぎ口ぶっこんで酒を飲ませる大人の年齢……気になるじゃん?


「二十三、だけど……」


 二十三が二十へアルハラか……。アウトでは? と思ったけど、そもそも注ぎ口を直接突っ込むなんて暴挙、何歳でもアウトである。


「で、肝心のマレーゼは?」


「わたし? わたしはね――」


 年齢を教えてあげると、フィジャは目を丸くしていた。年上だとは思っていなかったらしい。


「というわけで、お姉さんはパン屋さんに買い物に行ってくるので、フィジャはしっかり休んでおいてください」


 ちょっとわざとらしい口調で言い、わたしはパン屋に買い物へ出かけるのだった。

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