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 カオスだぁ……。

 わたしは酒の入ったコップを持ち、「僕の酒が飲めないっていうのかよ!」とイナリさんにがたがた肩を揺さぶられながらそんなことを思っていた。そんなにされたら水だって飲めないわ。

 最初はお行儀よくわいわい話しながらお酒を飲んでいた四人だったが、だんだんと雲行きが怪しくなり、現在に至る。

 確かに、ここに来たばかりのとき、お酒を飲み散らかした跡があったけど、ここまでとは……。


「はいはい、飲みます、飲みますから肩ゆするのやめてください」


 わたしがそう言うと、まだコップに八割はお酒が入っているのに、イナリさんがお酒を注ぎ足してきた。完全に悪酔いしている。


「あー、こぼれるこぼれる!」


 わたしは慌ててコップに口を付けた。随分と甘いお酒である。ちなみに、わたしはシーバイズ基準でも日本基準でもちゃんと成人していてお酒を飲める年齢なので飲んでもセーフなのです。

 あんまり好きじゃないけどね。苦かったり辛かったりするお酒はうえってなるし、甘いお酒は喉が乾く。飲めない程ではないけれど。

 イナリさんはまだお酒の瓶を持ったまま、じっとこっちを見ている。完全にわたしがコップから口を離したら次を注ぐ準備をしていた。口離すのが怖いな。


 イナリさんは酔うと絡み酒になるタイプらしい。めんどく……いや、なんでもない。

 イエリオさんはお酒が好きなようだが、非常に弱いようで、すぐに酔いつぶれて床に寝てしまっていた。


 ヴィルフさんといえば、にこにこと楽しそうに笑うだけで助けてはくれない。笑いの沸点がかなり低くなっているあたり、酔っ払うと笑い上戸になる人の様だ。陽気なところを初めて見た気がする。

 楽しそうで何よりですわ、いやホントホント。


 わたしはと言えば、普通……だと思う。量はさほど飲めるわけじゃない(イエリオさんよりは飲める自身はある)が、そこまで酔っ払うことはないし、翌日二日酔いで引きずるほどでもない。

 酒の味自体がそんなに好きじゃないから、べろべろになるまで飲まない、とも言う。


「……まだ飲み切らないの」


 じと、と据わった目でこちらを見てくるイナリさん。まだ一口、二口しか飲んでない。口を離したらすぐ注ぎそうで怖いんだもの……。


「あー、もう、イナリ! マレーゼは怪我が完治したばっかりなんだから、飲ませすぎないで!」


 キッチンにいたフィジャが、追加の料理を持ってきながらこちらに来て助けてくれる。半ば強引に、イナリさんから酒瓶を奪う。

 フィジャ自体はお酒に強い……というわけではなく、料理の追加とか、せわしなく動いて、完全にもてなす側の人間となっているからか、あんまり飲んでいないようだ。


「フィジャ、変わる? ご飯もあんまり食べれてないでしょ?」


「え? 大丈夫だよ。ボクは料理しているのが楽しいし。それに……」


 言葉を濁したが、視線はしっかりとイナリさんの方へと向いている。まあ、完全に出来上がって絡み酒をしてくるイナリさんがいる席には付きたくないか……。


「だから気にしないで――もがっ!」


 いつの間にか別の酒瓶を持っていたイナリさんが、「フィジャも席につけよ」と言いながら、酒瓶の口部分をフィジャの口に突っ込んでいた。

 絡み酒こっわ……。

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