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 ランチを食べ終えると、ちょうどいいタイミングでデザートがやってくる。ふわふわのシフォンケーキだ。

 クリーム系で重ためなパスタの後ではあるが、デザートは別腹というか、なんというか。

 シーバイズ時代には食べることが出来なかったふわふわのスポンジに生クリーム。シーバイズにいた頃は、特別食べたいと思わなかったのに、いざふわふわなスイーツのことを思い出してしまえば食べたくて仕方がなくて。


「マレーゼは、甘い物好き?」


 食べる前から頬が緩みっぱなしだったのか、フィジャがそんな風に聞いてきた。気持ちは弾んでいたけれど、そこまで顔に出ていたとは、ちょっと恥ずかしい。あまりにも子供っぽすぎる。


「久しぶりに食べるから、つい。シーバイズは甘い物って言ったらシロップ煮がほとんどなの」


 シフォンケーキにフォークをたてると、しゅわ、と音を立てて沈んでいく。音がすでにおいしそう。

 口に運べば、やっぱりおいしい。しゅわ、と音がするほどふわふわで、ふんわりと香るレモンの風味がたまらない。めちゃくちゃ好みだ、これ。


「フィジャはお菓子も作れる? わたしお菓子作りは料理よりもっと苦手で……」


 料理はなんとなくの雰囲気でもだいたい食べられるものが出来上がるが、お菓子はそうもいかない。しっかり計量してレシピ通り作ってもどうも美味しくならないのだ。手際が悪いんだろうか。


「できればそっちも教えてもらいたいなって。フィジャがお店を開いてわたしが手伝うのなら、覚えておいて損はないでしょ? まあ、今から頑張ったところでフィジャに追いつけるとは全然思わないけど……」


 文字にしろ料理にしろお菓子にしろ、教えて貰ってばっかだな、という感じでしかないが、わたしがフィジャに教えられることって魔法くらいしかないし……。でもフィジャには魔力がない。


 何か別の形でも返せたらいいんだけど。イエリオさんみたいに、喜ぶことがはっきりしていて、かつ、わたしに出来ることだったら丁度良かったのに。

 フィジャの喜ぶことが、あんまりピンとこない。


「ボク、店ではスイーツをあまり担当しないからそこまで自信があるわけじゃないけど……。それでもいいなら少し教えようか?」


「わたしよりは絶対おいしいから大丈夫だよ!」


 あれだけ美味しい料理が出来るのだ。確かに調理と製菓は別、という人もいるけれど、完全な畑違いでもないと思う。


「あ、そうだ。それなら帰りに買い物して、家についたら何か作る? クッキーみたいなものなら、今からでも作れるだろうし、折角なら夕飯も一緒に作ろうか。マレーゼが辛くなければ、だけど」


「いいの? ありがとう、作りたい!」


 早速教えて貰えるとは思わず、とてもありがたいお誘いだ。

 料理もお菓子も、数をこなせばそれなりのものが作れるようになるはず。わたし一人でも、皆に美味しいって言ってもらえるように頑張らねば。

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