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帰り道、わたしたちはスーパーのような商店へと足を運んでいた。大通りに露店が出ているので、そっちで買わないのか、と聞いてみたところ、あれは観光客向けの店らしく、ちょっと割高なのだとか。
質が悪い、ということはないが、普段使いするのならスーパーの方がいいらしい。
フィンネルのスーパーは、日本のそれと大差ないものの、並んでいる品物がどれもこれも見たことがないものばかりだ。野菜一つ、加工品一つ、初めて見るものだらけで。あ、あれはフィジャと前に昼ご飯を作るときに使った、トマトっぽい野菜だ。
ただのスーパーなのに、好奇心をくすぐられてしまう。知らないものばかりが並んでいるもので。
あれはなんだろう、これはなんだろう、ときょろきょろしていると、ふと、フィジャの方から笑い声が漏れていた。見れば、笑いをかみ殺しているフィジャがいた。
「どうしたの?」
そう聞けば、フィジャは、「さっきから耳と視線がせわしないのが可愛くて」と笑いを堪えながら答えた。いつの間にか、変態<トラレンス>で作った猫耳まで動いていたらしい。
可愛い、とは言ってくれるものの、完全にほほえましいものを見る目というか。馬鹿にしているわけじゃないっていうのは分かるけど、なんだかいたたまれない。
「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃない! しかたないでしょ、初めて見るものばっかなんだから」
そう反論してみるも、フィジャの表情はあまり変わらない。これはもう、弁解するほどダメな気がする。
いっそ開き直ってあれこれ聞いてやろ、とわたしは辺りの観察に戻った。変に意固地になって反論するより、諦めて好奇心を満たした方が賢いと思うので。
――と、わたしは花売りコーナーに目を止めた。
ちょっとした切り花を売っているスーパーを、日本に生きていた頃ちらほらと見かけたことはあったが、こんなにも立派な花屋のような花売りコーナーは見たことない。
しかも常設ではなく、何か特設のように見えた。母の日のカーネーションみたいなものだろうか?
「フィジャ、あれ何?」
「ああ、あれは創世記念祭の花だよ」
「そ、創世記念祭?」
なんか思った以上に凄いワードが返ってきた。
フィジャ曰く。
前文明が滅んだ千日後に、とある魔法使いが魔法を使って獣人を生み出し、新たな文明の一歩を踏み出した、という伝承があるそうなのだが、その千日後がちょうど今くらいの時期だとされているらしい。
で、それを祝って、その魔法使いが好きだとされている花を、恋人や伴侶に贈って生まれて出会えたことに感謝する日……だとか。
「まあ、ここ数十年は友達とか、世話になった恩師とか、恋人や夫婦に限らず大切な関係の人に送るようになってるけどね」
大仰な名前の割には可愛らしいイベントだった。どことなく、バレンタインに似ている気がしなくもない。でもあれは本当に恋人の為のイベントだけど。
「フィジャは贈らないの?」
「店長には贈ったよ。店員全員の連名だけど。イエリオたちには今更贈るのもなんかなあ、って感じ?」
まあ、なんとなくそれは分かる気がする。イエリオさんは素直に受け取るだろうけど、イナリさんとヴィルフさんは受け取る姿が想像出来ない。いやまあ、わたしへの態度とフィジャへの態度は違うだろうけど。
「あ、じゃあじゃあ、今年はわたしと連名で皆に贈らない?」
ランチを食べているときの会話で、近いうちにまた集まる、という話をしていたことを思い出す。今日、一品練習して、集まる日に皆にふるまってみたら? ということになっているのだ。
花なら、わたしの所持金でも、フィジャと折半すれば買えるはずだ。
最初は照れくさそうに「大丈夫だよぉ」なんて言っていたフィジャだったが、最終的には折れてくれた。
「ま、たまにはいいかもね。絶対みんなびっくりするよ」
ちょっといたずらっ子っぽい笑みを浮かべるフィジャと二人で花を見繕うのだった。
他人に花を贈るなんてしたことなかったけど、案外楽しいものだな、これは。
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