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店内は、入口横に外が見えるカウンター席が十席、オープンキッチンの前にカウンター席が五席、テーブル席は全部で六つ。テーブル席は四人掛けのようだ。
外見と同じように、内装も、シンプルながらに可愛らしくまとまっている。
「い、らっしゃいま……せ!」
店に入ってすぐ、犬獣人と思わしきお姉さんが挨拶をしてくれる。流石になんの犬種かまでは、見て分からないが、テリア系……なのかな? あんな感じの、半立ち耳をしている。ちなみに、図書館にいた司書の犬獣人のお姉さんは、ぴんと耳の立った、柴犬っぽい人だった。
そんなお姉さんは、普通に挨拶したかと思えば、客がフィジャだと気が付いたようで笑顔に磨きがかかり、わたしがいることに気が付いたのか、その笑顔が固まっていた。
「ふぃ、フィジャさん、いらっしゃいませ……。えっと、二名、ですか?」
ぎこちない言い方。まるで二名客じゃないことを望んでいるかのような声音。
しかし、フィジャはそれに気が付かないようで、「うん、二人!」と元気に答えていた。
これは……もしかしなくても、もしかして、って感じだろうか……。
ちょっと気まずい。フィジャ自身は、自分のことを「モテない」と評価していたけれど、これは本人が好意に気が付いていないだけ……というパターンじゃないだろうか。
「あ、えっと……席にご案内しますね……」
彼女の半立ち耳が、ぺしょっとしているように見えた。
撤回しよう、めちゃくちゃ気まずい。
というのも、わたし自身、フィジャが好きで結婚したわけじゃないからである。
いやまあ、好きか嫌いかで聞かれれば好きだけど、そういう、恋愛的な好きじゃないっていうか。これから芽生える可能性を否定はしないが、現状ではない。気のいい友達、っていうのが一番近いのかも。
でも、彼女はパッと見た感じではフィジャに恋愛感情的な好意を寄せているのが見て分かる。
「お、フィジャ君、今日はお客か? やけに別嬪さんを連れてるじゃないの。彼女かい?」
と、常連なのであろう、入口横側のカウンター席に座ったおじさんがフィジャに話しかけてきた。髪を剃り上げているおじさんは、フィジャと同じような、爬虫類系の獣人なのだろう。刈り上げの模様と、鱗がいい感じにデザインとしてマッチしている。
「あ、いらっしゃいませ! いや、この子は彼女じゃなくて……えっと、お嫁さんです。ボクこの間結婚することになって……」
フィジャがそう言うと、おじさんの驚いた声が店内に響いた。
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