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「さて、つきましたよ」
そう、イエリオさんに連れてこられたのは不動産屋――ではなく、工務店だった。
「???」
混乱する頭で、わたしは店とイエリオさんを何度も、交互に見る。えっ、借家とか、そういうアレじゃないの? 買うの? 家買うの?
あまりのスケールの大きさ……というか、唐突にも思える行動ではないだろうか……。えっ、わけわかんない。この国では結婚したら家建てるのが当たり前なの……?
あまりにわたしが動揺していたからか、イエリオさんがおかしそうに笑いながら、補足説明をしてくれた。
「貸し部屋でも構いませんが、五人も住むとなると、探すのが大変ですし。なにより、大体の不動産屋は新婚に部屋を貸してくれないんです。一夫多妻、一妻多夫の場合、特に」
新婚だとすぐに分かれることもないだろうし、部屋を出ていくこともなくて普通に借りられるのでは? と不思議に思っていたが、納得できない様子のわたしにイエリオさんが「夜が、その」と小さい声で教えてくれて、納得した。なるほど、そりゃあ新婚じゃあね……。人数が多ければさらにね……。
わたしと彼らが恋愛結婚じゃないからか、そこまでピンとこなかった。
「でも、お金は大丈夫なんですか?」
五人が住む一軒家って、それなりに大きい家になるのでは……?
四人の身なりからして、金がないようには見えないが、それにしたって家なんてそう簡単に買えるものじゃないだろう。ローンを組むとしても、まとまった金がいるし、それにむけて貯金をする、というのが一般的だと思うのだが……。
「えー、大丈夫だよ! ね、ウィルフ」
フィジャに話を振られたウィルフさんは、何も答えない。しかし、表情は険しいものではないので、これは無言の肯定といったところか……?
何も言わないウィルフさんに代わって、フィジャが説明を続ける。
「ウィルフは特級冒険者だからね! お金はいーっぱいあるんだよ」
冒険者! 冒険者ギルドにいたから、そうかなとは薄々思っていたけれど、いざ『冒険者』と言われるといかにも異世界ラノベっぽい響きでちょっとテンションが上がる。シーバイズ時代にはなかったからね、冒険者という職業は。魔物とか、そういった生物もいなかったし。千年後にはいるのかな、魔物。
「私もありますよ、お金」
メガネのブリッジを押し上げながら、イエリオさんが言う。
「えー、イエリオ、給料のほとんどを胡散臭いパチモンに使っちゃうじゃん」
「パチモンじゃありません、前文明の骨董品です! それはそれとして、いつか前文明の建築模様が明らかになった時、同じような家を建てようと、貯金はしていたのですよ」
フィジャの言葉を否定するイエリオさんの声音は、少し弾んでいる。おっと、これはわたしにシーバイズの建物について聞くつもりだな? シーバイズの家はほとんどが平屋なので、五人が住む家をシーバイズ方式で建てようと思ったらそれなりの土地がいる。フィンネル国を細かく見たわけじゃないけど、ざっと見た感じではあまり土地に余裕がある国には見えなかった。本当にお金、大丈夫なのかな……。
「……主にお金出すのがウィルフとイエリオなら二人の意見は優先するけど、僕らが住むことも忘れないでね」
しっかりと釘をさすのはイナリさん。わたしは住み慣れたシーバイズ方式だと嬉しいけど……まあ、彼らには彼らの好みがあるだろうし、あんまり我儘を言うつもりはない。そりゃあ、わたしの要望もある程度聞いてほしいけど。でも、お金を出すのは彼らだし。
「それじゃ、行きますか」
イエリオさんが、そう言いながら店の扉を開けた。
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